2012年8月9日(木)
色の難しさ、そして素材の不思議さを感じた一枚だ。
ニューヨークの展示会直前に仕上がってきたサンプルは、
はっきり言って、気に入っていない。
展示会場はガンガンに冷房を効かせてあって
出展者はみなガタガタ震えていた。
私たちは展示商品がストールなので、
みなサンプルを首や肩、腰に巻いてなんとか凌いだ。
そのときに、やはり気に入ったサンプルを巻く。
私はなぜか、シルクカシミヤのサンプルに手を伸ばさなかった。
素材は暖かいことは分かっているのに、
なぜか一度も巻こうとしなかった。
来場者からも人気がなかった。
気持ちが忙しなく動いていて、
そのことに心が行っていなかった。
思っていたのと違う、と気が付いたのは、
展示会が終わってからだった。
発注した色と微妙に違っている。
染め方も違っている。
この素晴らしく優しく柔らかい素材の良さが、ちっとも出ていない。
ストールのサンプルは、どことなく貧相な顔をしていた。
これはやり直しだ。
発注した色と見比べてみる。
とても微妙な違いだ。
しかし、その微妙さが、全く印象を変えてしまう。
時間がなかったため、展示会前に試し染めを確認しなかった。
これは染屋さんのミスではない。
しかし、色を直したところで、本当に豊かな表情になるのだろうか。
根本的な色の選び方が間違っているのではないか。
この細いシルクカシミヤの糸には、
相応しい色が限定されているのではないか。
そもそも、シルクカシミヤは防寒のための素材である。
季節は秋、冬がふさわしい。
だから、色もこっくりとした深く落ち着いた色が似合う。
でも、寒がりの私は、春がかなり進んでも、
こういう暖かい素材を首に巻く。
5月、6月になっても、巻いている。
きっと私のように寒がりの人は、何人もいる。
年配になればなるほど、体温の調節が利かなくなるため
暖かいストールを必要としている人は、多いだろう。
だから、どうしてもこの柔らかく暖かい素材で、
春らしい色のストールを作りたい。
あ、そうか。
春らしい色だけれど、求めているのは暖かさだ。
一目見て暖かさを感じる色でなければならないのだ。
もう一度サンプルを見る。
春にふさわしい、爽やかな色だ。
リネンに載せたら、気持ちいい色だ。
でも、この素材には合っていない。
これだ。
きっと、これなんだ。
ニューヨークの凍えるような展示会場で、このストールを巻かなかったのは、
きっとサンプルが寒い顔をしていたからだ。
ストール自身も、さぞや居心地の悪い思いをしていたことだろう。
ごめんね。
私たちがわざわざカシミアヤギから毛をもらうのは、
暖かさもらうためなのだから、
ちゃんとそのことに沿った表情に仕上げなくちゃね。
武藤さんが教えてくれた言葉を思い出す。
『糸正直』
もう一度最初からやり直してみよう。
春らしくて暖かい色。
それが見つかるまで、もうひと踏ん張りしてみよう。
色って難しいけれど、面白い。
そして、素材の持つ力は、強くて不思議だ。
◆こちらの商品は、【harukii オンラインショップ】で購入できます。
L、S、XSの3サイズそろえております。
また、他にも色違いがございます。
「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #1」
「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #3」
「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #4」
0 件のコメント:
コメントを投稿