厚顔無恥



2012年8月3日(金)

ニューヨーク最後の日に、The Plaza Hotel(プラザ・ホテル)に入った。
一日街を歩き回り、その音と人の多さで参っていたので、
確実に静かなところで休みたい、と思っていた。
それに、高級ホテルという興味もすごくあった。

本当なら、スニーカーを履いて、よれよれのパンツを履き、
肩からカジュアルなバッグを掛けたまま入るような場所ではない。
旅人とは厚かましいものだ。

一階のメインのダイニングは「予約が必要です」と断られた。
さもありなん。
私の格好で断られたのかもしれない。

しかし、宿泊客でなくても入れる場所を教えてもらった。
正面玄関のすぐ左側にある。
経営のためには、私のようなのも受け入れるのか。

ドアマンをすり抜けようとすると、宿泊カードはあるかと聞く。
「ノー。でも、あちらで、ここでコーヒーが飲めると聞いた」と言ってみる。
では、どうぞと、通してくれた。

しかしすでに席はいっぱい。
諦めて引き返すと、先ほどのドアマンが
「二階なら空いていますよ」と指差す。
階段の上はちょっと照明が暗くなっていて、バーのような感じ。
少しためらったが、せっかく言ってもらったので
思い切って階段を上がった。

そこは、本当に夜の雰囲気だった。
奥にはふかふかのソファ。
人々は、お酒を飲んでいる。

私はどこに座ろうか迷った。
一人でコーヒーを飲むのにふさわしい席が見当たらない。
ふかふかソファだと、きっと落ち着かない。
厚かましいさにも限度はある。

結局一番手前の踊り場のようなところ。
階段の脇の席にした。
一人用だし、一階が見下ろせて、一番明るい。

カフェイン抜きのコーヒーを頼み、
ぼーっと下を見下ろした。

NY屈指の高級ホテルだが、私のような観光客が多い。
服装も、みなカジュアル。
誰もが恥ずかしげもなく、記念写真を撮っている。
働く人は、みな移民。
あまり笑顔はない。

私も、最初は遠慮していたが、
iPhoneでこっそり気になるものを撮った。
(スイマセン)


スプーンに映った天井の明かり。


お手洗いの個室のドア。美しい。


一人、このホテルの顧客にふさわしいマダムが
脇を通っていった。
ツイード調のグレーのジャケットに黒いタイトスカート。
低いヒールを履いて、美しい金髪をアップにまとめている。
昔はこういう人たちしかこのホテルにはいなかったのだろうな、と思う。

すっかりくつろいだので、そろそろ出ようか。
その前に、あそこに見えるお土産コーナーを覗いてみよう。
何か素敵なものがあるかもしれない。

行ってみると、先ほどのマダムがレジの中にいた。
「ここで働いている人だったのか。」

そこは実はホテルのお土産屋さんではなく、
「The Assouline Bookstore」(アソーリン・ブックストア)。
アートに関する本を出している出版社が経営する書店で、
世界6都市に1店舗ずつしかない。
日本にはまだない。

このお店では、ファッションの写真集が多く扱われていた。
そして、少しの雑貨も置いてあった。

すごくお世話になった方に差し上げようと、
天眼鏡を買った。
「プレゼントにするので」と言いかけると、
「ラッピングですね」と先ほどのマダム。
商品のサイズよりも随分大きな箱に入れてくれる。
お土産のスペースのない自分のスーツケースを、ちらと思い浮かべる。
そして、彼女の手元。

てっきり大きく派手なリボンが巻かれると思っていた。
だから、この「封蝋」というすっきりした包装にドキッとした。

そして、偶然にも、これをプレゼントする方とは
「封蝋」がちょっとしたキーワードなのだ。

「実は、先ほど貴女を見かけて、このホテルの滞在客だと思ったんですよ。」
「まぁ、そうですか。」
「あなたが、私が見た中で一番エレガントだったので。」
「まぁ、有難うございます。最近はショートパンツで来られるお客様もあってね。」
「そうですね。皆さんかなりカジュアルになっていますね。私も含めて。」
「まぁ、そんなことはないですよ。」

彼女はこのお店のマネージャー、ヘレン・ガーフィールドさん
出版の企画もしているのだとか。
以前は、ロックフェラービルに入っているメトロポリタン美術館のミュージアムショップで
20年以上働いていたという。
「スカーフを見るなら、そこへ行ってらっしゃい。
美しいスカーフが沢山ありますよ。」

無理を言って、美しい髪を撮らせていただいた。
「顔はだめですよ」

ニューヨークに来て会いたい人が、また一人増えた。


The Plaza Hotel >>>  (音楽が流れます)

The Assouline Bookstore >>>




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