2023年春 長綿ガーゼストール Ⅳ



2023年4月6日(木)

(Ⅲより続く)

いよいよ次は、糸の染め、そして織りへと続く。

柄を決めるにあたっても、ああだこうだ、どうしようと、
実は半年くらい悩んでいた。
2023年の春に発売することを決めてから、
どんな色、柄が良いだろうかと、考えを巡らしていた。

それについては、今は細かいことを書かないでおく。
(後ほど加筆するかもしれません。しないかもしれないけど。)

とにかく、赤系、黒もしくは紺系の2配色と決め、
ギンガムチェックを基本とした柄、というのも決めた。

つまり一方は白+赤のチェック。
一方は白+黒or紺のチェック。

黒か紺か。
どうするどうする。
さぁさぁさぁさぁ。

黒に近い紺にした。
どっちも取ったら、こうなった。

糸染めは新潟県長岡市の工場。天然繊維糸の染色に定評ある工場さん。
織りは東京都八王子市の工場。
こちらは、harukiiの他のストールも多く織って頂いて、
その品質の高さ、仕事の正確性には
全幅の信頼を置いている。
というより、harukiiのような弱小ブランドが発注するには
恐れ多い工場さん。
自分の厚顔さに唯一感謝する場面だ。

10年まえの製品から改良したところがある。
それは、サイズ、そして織機の種類。

サイズはかなり大きくした。
それは、こんなご意見を頂いたから。

「車を運転するとき、日よけに肩に掛けています。
軽くてさらりとしてとても気持ち良いのだけど、もうちょっと長い方が助かる。」

前のバージョンは長さが130cmだった。
今回は180cmにした。左右25cmずつ長くなった。

そして、織機の種類はシャットル機にした。
シャットル機というのは、古い型の織り機で、
手織り機のように、よこ糸を積んだ杼(ひ)が
右へ左へと飛ばされ、生地をゆっくり織っていく。
そして、ジーンズでよく言う「セルビッチ」
つまり耳が両端にできるのが特徴。
逆に言えば、耳がある生地はシャットル機で織っている。

シャットル機の良いところは、
よこ糸を運ぶスピードが遅いので、糸が無理に引っ張られない。
充分な余裕をもって杼がよこ糸を運ぶ。
そのため、糸のもつふんわりさ、柔らかさが損なわれず、
仕上がった生地も、実にふんわりとする。

前章(Ⅲ)の通り、あれだけこだわって吟味して選んだ糸である。
その特徴を細大漏らさず残し、
最高の肌触りの生地にしたい。
そういう思いから、シャットル機でゆっくりと織ることにした。

この機だと、一日に10枚しか織れない。
だけど、それも良かろう。そうだからこそ、良いのだ。
インドから手摘みで取られたコットンが
コンパクト糸となって日本にはるばるやってきて、
新潟で染められ、
富士山のふもとで下準備され、
そして、八王子の伝統ある工場で一日10枚の緩さで織られる。
長い旅の最後まで、ゆっくりゆったり行こうじゃないか。

シャットル機で織っている様子はこちらの動画でご覧いただけます。
(注! いきなり大きな音が出ます)

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【長綿ガーゼストール】

素材:  綿 100%

原料の原産国: インド
加工地
  紡績: インド
  糸精錬・染色: 新潟県長岡市
  たて糸糊付け: 静岡県浜松市
  たて糸整経: 山梨県富士吉田市
  よこ糸準備, 織り: 東京都八王子市
  生地洗い, 乾燥, 整理, 生地検品: 東京都八王子市
  製品加工・検品・ネーム&タグ付け・袋詰: 東京都世田谷区

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製品はこちらでお求めいただけます。



皆さまのご来店を心よりお待ち申し上げております。

harukii
髙橋裕子


2023年春 長綿ガーゼストール Ⅲ



2023年4月5日(水)

(Ⅱより続く)

いよいよコットンのストールづくりだ。
まず、糸の在庫確認から。

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そもそもこのストールがなぜそんなに柔らかいか。
10年経っても、肌触りが優しくふんわりしているか。
それは取りも直さず、糸の質にある。

(ここから少し技術の専門的な話になります。
でも、ここがこのストールの肝なので、特に力を込めて書きたいところなのです。
ご容赦ください。)

使っているのはインド原産の長繊維綿。
原綿はその繊維の長さよって、4ランクに分けられている。
繊維が長いほどクオリティが高いということになる。

*短繊維綿(21mm以下)
*中繊維綿(21mm〜28mm未満)
*長繊維綿(28mm以上)
*超長繊維綿(35mm以上)

今回のストールに使う糸はこの中の『長繊維綿』にあたる。
その中でも、特に『スぺリアル』という特級品が使われている。
そのクオリティを作り出すために、
毎年手作業で人工交配が行われているという。
そして収穫時、コットンボールはひとつひとつ手で摘まれている。

広大な綿畑に植わっているコットンは、
通常大きな機械で一気に収穫する。
成熟した綿も未熟な綿も、葉も茎も一度に刈られる。
そのあと別の大きな機械に掛けられ、綿と種と葉と茎が選別される。
が、やはりいろいろ混ざってしまう。

手摘みの綿の良いところは、ひとつづつ丁寧に採取するため、
茎や葉が混入しにくい。
そして綿の長い繊維を長いままに取ることができる。
クオリティの高い糸となる。

またこの糸の別の特徴は、紡績の仕方。
紡績というのは、原綿を撚(よ)って糸にすること。
この原綿はスぺリアルというだけあって、
繊維が長いだけではなく、細くしなやかだ。
なので、より高度な加工に耐えられる。
紡績はインドの工場で行われているが、
日本の綿糸の専門企業によって高い品質基準のもと、厳格に管理されており、
国内紡績と同等の品質を保っている。

紡績の種類には3段階ある。

・カード糸
・コーマ糸
・コンパクト糸

下に行くほど上質な糸となる。
特にコンパクト糸の紡績技術は近年に開発されたもので、
その特徴は表面に出る毛羽が格段に少ない。
それは、紡績工程で毛羽を内側にしまい込みながら糸に仕上げる方法らしい。

今回使用するコンパクト糸の毛羽は、なんと通常の1/6だそうだ。

  通常コーマ糸       コンパクト糸
















コンパクト糸の実力は、その後の工程で顕著になる。
織ったり編んだり染めたりするために、
糸は紡績された後『巻きなおし』という工程を通らなければならない。
普通の紡績では、ここで毛羽が10倍も出てしまうという。

毛羽毛羽というけど、毛羽の何が悪いの?
なぜにそう毛羽を無くしたいの?

毛羽には申し訳ないが、
毛羽はそもそもその生き物(生物・植物)が
外界から身を守るために生えているものだ。
人間の産毛もそれにあたると思う。
その役割上、強いのだ。
どんなにふわふわして優しく見えても、
顕微鏡でみると鱗でおおわれていて、近寄りがたしという形状なのだ。

そして人間の肌はとても敏感だ。
いくらカシミヤだビキューナだと言っても
毛羽がある限り、肌に強く当たってしまう。
(多分。おそらく。ビキューナは触ったことがないので、私見です。)

そこでコンパクト糸を作る機械が登場したわけだ。

長繊維綿。
その中でも『スぺリアル』という特級品を使い、
手摘みで採集された綿花から、
日本企業の厳しい管理のもと、毛羽の少ないコンパクト糸に仕上げたこの糸。
この糸こそが、前回のお客様のお言葉、

「一緒に時を重ねて味のある風合いにしたい」

それを可能にする超超超重要なカギなのだ!

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スミマセン。力が入りすぎました。

閑話休題。
糸は現在も扱われているということで、
すぐに調達できました。

ホッ。



2023年春 長綿ガーゼストール Ⅱ



2023年4月4日(火)


そのお客さまとのメールは、大切に保管してある。
今読み返しても、胸が高鳴るほど嬉しい。

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ストールの愛用者です。
初めて出会ったのは、5年ほど前です。
軽くて温かくて、おしゃれでとても気に入っていおり、ずっと愛用していました。

けれど、先日うかつにも紛失。
何処かで落としてしまったみたいで、とてもショックを受けて落ち込んでいます。
大好きなお気に入りのストール。グレーと生成りのような絶妙な色合い。
どんな服にもあい、夏は首の日よけや冷房対策に重宝していました。

同じ品物を購入したいのですが、出来ますか?
なければ似ているのをご推奨頂ければと思っています。
ご連絡お待ちしております。

本当に無くして悲しくて悲しくて。
早くharukiさんの羽衣のようなストールを首に巻きたいです。
どうぞどうぞ宜しくお願いいたします。

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このお客様のもとへ行くべき運命だったのだろうか。
本当に偶然だが、一枚だけ残っていた。

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早速にお返事頂き有難うございます。
最後の一つ。残っていてくれたなんて!
ジャンプして飛び上がって喜びたい気分です。

最初に出会った時に一目ぼれして購入し、それ以来、冬を除く全ての季節に、
職場に旅行に近所のお買い物にと、フル活用しておりました。
切っても切り離せない相棒のような存在だったので、ご連絡頂き本当に嬉しいです。

代引きで購入します。
直ぐにでも必要。直ぐにでも会いたいので。
どうぞ宜しくお願いいたします。

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大好きなストールと再会を果たし、いま首に巻いております。

まだ生地が硬いですが、一緒に時を重ねて味のある風合いにしていきたいと思っております。

最後の一つ。残っていて本当に良かったです。
紛失の際はかなり落ち込みましたが、ご対応のおかけで6日目に新しいストールとして戻ってきてくれて嬉しいです。

前の体に馴染んだストールも大変名残惜しいですが、新しいストール大切に大切に使います。

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お買い上げ頂いて、
そのうえ何度も何度も嬉しいと言っていただき、
なんと幸せ者のharukiiか、なんと幸せ者のストールかと思う。

そして、
「一緒に時を重ねて味のある風合いにしていきたい」というお言葉。
ああ、これだ。
これこそharukiiのストールが目指していることだ。

いつもそばにあり、
出かけるときの相棒として、仲間として、
支えてもらう味方として、
そんな存在でありたい。

困ったとき、弱っているときに巻き、
旅に出るときに必ずバッグに入れ、
大切な人に贈りたいと思う
そんなストールでありたい。


このお客さまとのやり取りがあって、
再び5年が経ってしまった。
そして、今年いよいよまたこのストールを作ることになった。

今度はどんな色にしよう。
柄はどんなのがいいか。
サイズは見直した方がよさそうだ。
いやそれより、肝心の糸はあるのか。
まだ同じスペックで作られているのだろうか。
まずは糸の確認からだ。

さあて、いよいよだ。



2023年春 長綿ガーゼストール Ⅰ



2023年4月3日(月)

手元にもう随分前に作ったストールがある。
綿100%のガーゼストール。
何度も洗って洗って使っている。

最初は手で洗った、と思う。
harukiiで表示している「お手入れの方法」通りに、
40℃くらいのぬるま湯に浸け、
デリケートな衣服を洗うのと同じ方法で、
いやそれよりもっと丁寧に。
なるべく触らずに、そっとそっと。
そっと開いて、そっと干す。

でもいつ頃からだろう。
忘れてしまったが、きっと使い始めて間もなくだ。。
洗濯ネットに入れて、
他のタオルやTシャツなどと一緒に洗濯機に放り込み、
ガーガー回す。
脱水が終わったらネットから取り出し、
ざっと広げて力任せにパンパンと振る。
タオル掛けに掛け、太陽の強い光にさらす。

パリパリに乾いたこのコットンのストールは、
畳むとふんわりと手のひらに温かい感触を与える。
首に巻くと、安心する優しさ、懐かしい優しさが戻ってくる。

そうやって何度冷たい水にくぐらせ、
洗濯機で乱暴に回し、
天日干しを繰り返しただろう。

時にはもうネットに入れるのも忘れて、
縦型洗濯機の中に放り込まれる。
他の洗濯ものとぐるぐるに絡み合って
洗濯層の中で揉まれている。

脱水機でしっかり絞られ、
無造作にパンパンパンと広げられ、
タオルなどと一緒に干される。

ガーゼで薄いので、
太陽の日差しを浴び、そよ風でも吹けば、
もう30分ほどで完全に乾いてしまう。

そうそう、そういえば、
「タオルのようなストール」というのが
サンプルを作った当時のテーマだった。
ウォーキングや庭仕事などで、額の汗を拭き、顔を拭き、
水道の蛇口でじゃぶじゃぶ洗えて、
手で絞ってもすぐに乾く。
でも、タオルよりも肌触りがうんとよく、
ちょっとおしゃれして街に出るときにも気軽に巻ける。

そんなストールを作りたいと思って作ったんだったなぁ。
よく頂く「粗品」というのし紙が付いた薄いタオル。
あのボリュームが目指すところ。
サンプルのストールをぎゅっとしぼって、
タオルと同じぐらいの握り具合かどうか確かめたっけ。

昔の生産履歴を調べてみたら、
丁度10年前に作ったものだった。
あれから10年も経ったのか。
この10年の間、何度洗濯機に回されたのだろう。

今も現役バリバリのストールとして
本当に重宝して使っている。
そして風合いが、誠に良い。
柔らかくてふんわりして、肌に寄りってくれるような優しさだ。

こんなに強い味方になってくれるなんて、
10年前には全く予想できなかった。

でも一つ、強く印象に残っている出来事があった。
ある日このガーゼストールをご購入下さったお客さまからメールが届いた。
ストールを失くされたという。
同じストールの在庫があれば買いたいと。

そのお客様とのやり取りは、ずっと頭の片隅から離れなかった。
またぜひこのストールを作ろう。
ずっとそう思ってきた。