La+h by Keiji Otani



2012年6月30日(土)

昨日、銀座松屋で、 La+h(ラス)の展示会を見せて頂いた。

La+h は、テキスタイルデザイナーの大谷敬司さんがデザインする
ストールのブランド。

どなたかのブログに書いてあったが、そのディスプレイの様子は
まるで虹の滝のよう。

大谷さんはロンドンでテキスタイルデザインを学び、
帰国後は長年【NUNO】で働いていらした。

【NUNO】は、生地が好きな人なら一度は訪れたい生地専門のお店。
テキスタイルのありとあらゆる技法と感性の宝庫。
ため息の出るような美しい生地が並んでいる。

そんな会社でデザインされていたのだから、
日本のあらゆる産地や技術を知っていらっしゃる。
だけれど、大谷さんは今は一つの技法
「絡み織(からみおり)」に的を絞っている。

絡み織は、たて糸をねじりながら、よこ糸を入れ込んでいく技法。
そうすると、たて糸の間に隙間ができ、とても風通しの良い布が織りあがる。

この写真は、大谷さんのストールのクローズアップ。
白いたて糸がねじられているのが分かるだろうか。
(これがiPhoneの限界。)

絡み織のストールは、とても軽い。
そのうえ、大谷さんのストールは細い糸を使ってあるので
巻いてみると、ふわりと優しい感触。
しかも、さらりとしている。
夏にはぴったりの素材である。

驚くのは、たった一つの技法なのに
すごくたくさんのバリエーションがあること。
これが大谷さんのデザイン力。
微妙に違う二色を使ったり、
ストライプの幅にバリエーションを付けたり。
差し色を一本だけ入れて、全体をキリッと締めたり。

一枚のストールを手に取って、その色使いに目をやると
もう、なんだか、その世界に引き込まれていくような気がする。

私も一枚、お気に入りを見つけた。
ヨコに赤い糸で、縞模様を作っている。
その縞は、3種類の幅がある。
巻くと顔の周りには、太い縞が来て、
先の方には、細い縞。
この幅の配し方のおかげで、顔が明るく、柔らかく見える。
さすが。
もちろん、これを求めた。

家に帰ってベランダに掛けてみた。
夕方の日差しを柔らかく通して、
少しの風にもふんわり揺れた。

ああ、いい風だ。
こうやって揺れている様子を
音楽聞き、シャンパンを飲みながら
いつまでも眺めていたい。

大谷さんの色の世界。
これからも追いかけていきたい。



松屋銀座での展示会は、下の会期で行っています。

会期: 2012年6月27日(水)~7月3日(火) 10:00~20:00 (7月1日、2日は10:00~21:00)
会場: 松屋銀座 7階 デザインギャラリー (エレベーターを降りると、すぐ左側にあります)

ぜひご覧になって下さい。
気持ちがスーッとしますよ。





2013春夏 シルクウールxリネン・変りヘリンボン #1



2012年6月29日(金)

なぜこのサンプルが送られてきたか、覚えていない。
おそらく、機屋さんとの会話で
「それ、触ってみたい」
と、私がリクエストしたからだろう。

送られてきた変りヘリンボンのサンプルは、
シルク、ウール、リネンの3つの素材が使われている。
もっと細かく言えば、
たて糸に、シルクとウールを混ぜ合わせて作った糸、
よこ糸にリネンを打ってある。

カシミヤの柔らかさに慣れている私は、
最近ウールを敬遠していた。
ウールはチクチクする“お年頃”になったからだ。

でも、シルクと混ぜ合わされているなら、どうなんだろう。
それに、ウールという、なぜか懐かしいような響きが
今は新鮮な気がする。
私が幼いころ、純毛の製品は高級品だった。
高級毛布と言えば、文字通りウール100%でできていたし、
セーターには純毛を証明する「Wool Mark」が付いていた。

いまではちょっとノスタルジックな感のあるウール。
それとシルクを混ぜ合わせて、どんな糸になったんだろう。
きっと私はカシミヤの従順な柔らかさに、
少し飽きているのだろう。
シルクのしっとり感と混ざって、
いい具合にいい具合なんじゃないかと、期待する。

送られて来たサンプルを巻いて、外出した。
とても寒い日だった。
コートを着て、首にぐるぐる巻いて
首をすぼめて歩いた。
北風がびゅんびゅん吹いていた。
その中を、前につんのめって歩いた。

しばらくして気が付いた。
「寒くない。」
やっぱりウールは温かい。
それも、ほっとする感じ。
それに
「チクチクしない。」
シルクがそれを緩和している。
そして、ウールの懐かしいシャリ感が
いい感じにいい感じだ。

幼いころに親しんだ毛糸の感触が
よみがえってきた。
なんだかほっとして、熱いコーヒーが飲みたくなった。


羊の群れ ウィキペディアより



◆こちらの商品は、【harukii オンラインショップ】で購入できます。





「2013春夏 シルクウールxリネン・変りヘリンボン #2」






むらさきかたばみ



2012年6月28日(木)

この時季になると、庭にポツリポツリとピンクの花を見せてくれる
紫方喰(むらさきかたばみ)。


夏の花で、大好きな花だ。
摘んでガラスのグラスに入れる。

この花は、ガラスが似合う。
磁器では荷が重い。
陶器では世間を知った逞しさを求められる。
この可憐さ、軽さ、透明さ、純粋さが似合うのは、ガラスなのだ。

花びらは陽の光りに反応して、
朝日を求めて開き、夕方閉じて、俯く。
茎から伸びた花は、自由にその方向を定め、
薄い花びらいっぱいに光を受ける。

花の中心はとても淡いみどり色。
雄しべと雌しべが芥子粒のように収まっている。
じっと見つめていると、吸い込まれそうになる。

花べんに走る脈を伝って、その茎に入ってみたい。
それからずっと先、根元まで伝って行ってみたい。
そこには、透明な養液が湛えられた湖がある気がする。

こんなに小さくたおやかなのに、
はちきれんばかりの力強さで開花する。
この力強さは、きっとその湖から、滋養溢れる養液を
たっぷりと吸い上げているからだろう。

こんなに小さな花でさえ、
私を大きな力ですっぽりで包む。
花の一つ一つが自分の生を力いっぱい生きている。
紫方喰を見つめていると、
自然に力が満ちてくる。




2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #1



2012年6月27日(水)

数年前、機屋さんがこんなことを言った。
「ロロ・ピアーナの糸、あるよ」
「え?」
「興味ある?」
「あります! 大あり!」

時は遡って、もう15年ぐらい前。
私はビスポークというものにとても興味を持っていた。

英語で bespoke (ビスポーク)、イタリア語で su mizura (ス・ミズーラ)。
お仕立服のことである。
当時はメンズ雑誌を舐めるように読んでいた。

メンズ雑誌は生地や製法の説明が、詳細に載っている。
工場の取材も、丁寧になされる。
「ションヘルで織ったスーツ地」なんて脚注を見ると
血が騒いだ。

※ ションヘル=旧式の低速織機。糸を横に運ぶスピードが遅いので、糸に無理な力がかからず、生地がふっくらと仕上がる。

で、そのうち好奇心がむずむずして、一度作ってしまった。
ビスポークのスーツ。
もちろん、女性仕様で。

テーラーに出かけ、生地を選び、スーツの形を選ぶ。

生地を選ぶとき、生地帳を何冊か見せてもらった。
「こちらがロロ・ピアーナ社、こちらがゼニア社」
「で、こちらが国産の生地」
イタリアやフランスの生地は、
一社ずつそれぞれの会社の生地だけをまとめた生地帳なのに対して、
日本製の生地は、「御幸毛織」以外は
生地の会社名も分からず、一冊にまとめられていた。
その日は「国産の生地で仕立てよう」と決めて出かけて来ていた。
だから、その十把一からげのような扱いに、ちょっと落胆した。

あこがれの「ロロ・ピアーナ」の生地帳は、
それだけ見ていてもうっとりする。
ロロの生地はどれもしなやかで光沢があり、ドレープが美しかった。
随分前に、これもメンズ雑誌に出ていたが、
生地帳を作るときも、その生地の並べ方に神経を使っているという。
私は結局、ロロ社の薄いストライプの入った、濃紺の生地を選んだ。

それ以来、私は「ロロ・ピアーナの生地を使った女」として
まるでロロ社の上顧客のような気分になっている。

で、機屋さんとの会話に戻る。

「ロロ・ピアーナもいいんだけど、もっといい糸あるよ。」
「え、どんな糸ですか?」
「それはねぇ。。。へへへ。」
もったいぶっている。
「俺っちで別注で作ってもらってるんだ」
「へぇぇぇぇ。」

驚いてしまった。
普通、機屋さんが別注で糸を作ることはない。
糸をオリジナルで作る場合、何百キロという発注量になる。
それだけの量を消化するには、大量の生地を織らなければならない。
しかし、お客様からの発注なしに、
機屋さんが勝手に生地を織ることはしない。
だから、糸は倉庫に長い間眠ることになる。
そんな在庫を長期間持つリスクを、
機屋さんは決して取らない。
普通は、糸問屋さんの在庫から、必要量だけ買うのだ。

しかし、この機屋さんは、自分で糸を別注してしまったのだ。
その糸は、シルクとカシミヤの混紡糸。
それがまた、実にいい。
しっとり、ねっとりしたカシミヤと、腰と張りのあるシルクが
絶妙な分量で混ざっている。
その糸で織られたストールのサンプルを巻いてみる。
しっとしりていて、ふっくらしていて、とても温かい。
そのうち、何ともいえない幸福な気持ちになる。

その糸を見せてもらって以来、
私はその糸にぞっこんである。

来年の早春用に、この糸を100%使用したストールを入れる。
サイズは男性でもゆったりと巻ける大きさ。
色は3色。グリーン、ピンク、ブルー。
それをゆったりとしたぼかし染めにしてもらう。

糸の在庫はたっぷりあるし、ストールのサイズもたっぷり。
そして、一枚一枚たっぷりの洗液のなかでゆっくり染められるストールは、
さぞ仕上がりの表情も、余裕のある顔をしているだろう。

このストールを首にぐるぐる巻いて
まだ春浅い早朝の森を、愛犬と一緒に散歩しよう。
(もし犬を飼っていればの話だが。)



● ロロ・ピアーナ のウェブサイトはこちら >>>>>

● ションヘルの動画を見つけました。>>>>> 音が大きいので気を付けてくださいね。



◆こちらの商品は、【harukii オンラインショップ】で購入できます。
 L、S、XSの3サイズそろえております。
 また、他にも色違いがございます。
 寒さが増すこの季節、ぜひ軽くて暖かいこのストールをお試しください。






「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #2」

「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #3」

「2013春夏 シルクカシミヤ平織ストール #4」







光沢



2012年6月26日(火)

ベトナムのお土産に、とても美しいシルクのスカーフを頂いた。


淡い黄緑色と、やや灰色がかったブルー。
黄緑色の部分は、とんぼの羽のように薄く、透けて見える。
そして、全体に細かなジャカード模様が織りだされている。
とても繊細な仕事だ。

このスカーフが作られているのは、
ハノイ市内より南西に約10kmのところにある
Van Phuc(ヴァン・フック)村。
通称シルク村と呼ばれ、村人の約9割が織物に携わっているという。
織機は自動で動くとはいえ、骨組みは木材でできていて、
一台に一人が付きっきりで動かしている。
日本が40年~50年前に使用していた織機が
かの地では主力の機械だという。

村全体が織物で食べていけるなんて、
それこそ40年~50年前の日本と一緒ではないか。
そんな活気のある空気に、私も触れてみたいと思った。



しばらくスカーフを眺めていて、ふと思った。
「どうして外国の製品ってわかるのかな。」

もし仮に、これがどこの製品か知らされていなくても、
なんとなく日本製ではないと分かる。
どうしてだろう。

日本に劣らず、ベトナムも高い技術を持っている。
模様はオーソドックスなペイズリー柄。
日本人好みの柔らかくて繊細な感触。
色も淡くて、ちょっとシック。

なのに、なぜかとても外国的なのだ。
一体どこが日本製品と違うのだろう。

あっ、そうか。
この光沢だ。
ジャカード織で浮き出ている糸が、
ピッカピカに光っている。
ちょっと金属的、と言えるぐらいにツヤツヤだ。

確かに絹はここまで艶を出すことができる。
絹なんだから、徹底的に光沢を出すのが、
外国製品、特に東南アジアの特徴かもしれない。

日本はここまで艶を出さない。
金や銀も同じ。
あまりピカピカさせず、一歩手前で仕上げを止める。
ちょっとくすんだところに美しさを見出す。
これが、ほかの国との違いなのだ。

ちょっとくすんだ、鈍い光を美しいとする感性は
日本でいつごろ生まれたのだろう。
美術史を勉強すればわかることだろうが、
私は寡聞にして知らない。

ただ、感覚的に「ピカピカは日常の生活に溶け込まない」と思う。
湿度、水、太陽の光、森。
日本の風土が色を選んでいる。
そして、光の具合さえ、無意識に選んでいる。

外国土産のスカーフを見て、思わず日本再考。
おもしろいなぁ。

そうしているうちに、
不思議だ。
気のせいか、
手の中のスカーフとの距離が、少し縮んだ。





2013春夏 ペイズリージャカードストール #2



2012年6月25日(月)



手元にあるサンプルは、ペイズリーを変化させた柄。
どちらかというと、大人しい印象なのは、
色も黒と白の二色だけを使って、全体的にグレーに見えるから。

このストールの特徴は、その手触り。
ふんわりと柔らかく、さらりとしていて、かつしっかりとした張り。
「柞蚕糸(さくさんし)」という絹糸を使っている。

※ 柞蚕は、ヤママユ蛾のこと。野蚕(野で飼育される蚕)の代表格。家蚕家内で飼育される蚕)と違い、野外の林で放し飼いされる。家蚕よりも大きく、太い糸を吐く。主な生産地は中国。

この感触を残し、色に変化を付けたいと思った。
ところが、機屋さんに聞くと、
今柞蚕糸が手に入りにくい、という。
さぁ、どうしよう。
柞蚕糸を使わずに、この風合いを出すには、
どんな素材を使ったらいいだろう。

蚕が吐く糸には、セリシンという糊状のものが付いている。
それを普通は完全に取り除いて使用するが、
わざといくぶん残したままにする場合もある。
それは、糸に張りを出すため。

このペイズリーのストールにも、
たて糸にセリシンを残した家蚕の絹糸を使ってみよう。
柞蚕糸の張りに近付けるには、
その糸を全体に対してどのくらい使用するかを
見極めなければならない。
分量によって、「柔らかさ」と「張り」のバランスが
微妙に違ってくる。
多すぎると、固くなりすぎる。
少なすぎると、張りがなくなる。
微妙なさじ加減。

さっそく機屋さんに相談だ。
「ふーん、そうだねぇ。じゃぁねぇ、、、。」
ここは、機屋さんの経験と勘に頼る。
これまでシルクをいやというほど扱ってきた機屋さんだ。
きっと、風合いをピタリと近付けてくれるだろう。
さっそく、染色工場に糸の染めが手配された。

色は、ワイン色、紫、緑の三色に決めた。
先染めなので、たて糸とよこ糸が交差して色が混ざったように見える。
思った通りの色合いに上がってくるかは、
サンプルが仕上がってこないとわからない。

こうやって、私にも経験が一つ一つ積まれていく。




2013春夏 ペイズリージャカードストール #1



2012年6月24日(日)

端正な顔のストールを一枚作りたいと思った。
ストールというか、スカーフというか。
きちんとした装い、というものに
年々惹かれていくようになったためか。


幼いころ、「よそ行き」という言葉があった。
今の若い人も使うのだろうか。

「よそ」に行くといっても、田舎に住んでいた私にとっては、
金沢にあるデパートにバスで行って
お子様ランチを食べることぐらいしかなかった。
結婚式やピアノの発表会は、「よそ」の中でも最上級。
これは、「晴れ着」の範疇に入る。
着物ではないが、ちょっとやそっとのイベントでは着られない。

そんな風に、まだ小さい私にさえ
着る物にランクがあった。
もちろん、それは親が決めたもの。
どういうものが「晴れ着」でどういうものが「よそ行き」なのか
その基準は親によって決められていく。
それが、一生を通じての自分の規準となっていく。

ずっと日本では、その基準が独りよがりではなかった。
まわりの人との結びつきが密接で
良くも悪くもお互いの目が気になったころ、
日常生活の細々としたことに至っても、
すべてのランクの規準は、その生活文化圏で共通だった。

私が子供だった1960年代。
花が咲くように自由が謳歌され始めた。
それでも、生活の諸事にまだまだ格付けがあった。

私は成長期に入ると、それがいちいち煩わしくなってきた。
しきたりや常識というのが
まとわりつく蜘蛛の巣のように感じられた。
随分長い間、反抗したと思う。

しかし、今ではその反抗心はすっかり消え失せ、
親が決めたランク付けの中に、すっぽりと収まっている。
どうしたことか。
歳をとるとは、こういうことなのか。
「帰ってきた」という感覚。

先日病院に検査に行った。
出かけるときに、呼び止められた。
「え、ジーパンで行くの?」
病院、ジーパンじゃいけないのか。
「先生に看て頂くのに、失礼じゃない。」
はぁ、そういうものか。
その時は、着替えるのが面倒臭く、
ジーンズのまま出かけた。

病院に行って見回す。
きちんとしている人、ラフな人、様々だ。
男性も女性も、年齢が上がるにつれて、
「よそ行き」と思われる装いをしている。
病院でラフすぎると、なんだか崩れる感じがした。
せめて入れ物だけでもきちんとしないと、気が滅入る。

シニアの方は、それが分かっているのだろう。
先生や看護婦さんのために、ほかの患者さんのために、
そして、自分自身のために、よそ行きで診察にいらしている。
「よそ行き」の力を見た気がする。


機屋さんから、きちんとした印象のストールを借りてきた。
これを今から料理する。
さぁて、どういうふうにしようか。

                                                    photo by a tai.




形あるもの



2012年6月23日(土)

写真を撮るのが好きなのかもしれない、と思う。
最近撮りためた画像。

塗料が落ちた古い建造物の木肌。


工場の古い機械の表面。


神社の階段


古い機械の表面。


壁に差し込む朝日



すべからく、形あるものは生きている、と
若いころに気づいた。

この世に生まれてから朽ち果てるまで
刻一刻とその細胞は成長を始める。
それは、鉄やプラスチックや陶器、すべてにおいて。

その速度はそれぞれに固有。
人間の細胞よりもずっとずっと遅くて、
その成長に気づかないものもある。
しかし、変化しないものは、何一つない。

私はその物たちと一緒の時代を生き、
一緒のできごとを共有する。
お互いの成長の速度には干渉できない。
ただ、受け入れる。

人間より速く成長し、朽ちていくものには
有難うといって見送りたい。

人間より遅く成長し、こちらの終わりを見守ってくれるものには
有難うといって別れを告げたい。

すべてのものが、お互いに守りあっている。




2013春夏 細番手リネン平織ストール #1



2012年6月22日(金)

春夏向けのストールに欠かせない素材。
それは、麻(あさ)。

吸水性が良く、軽く、さらりとした肌触りで、かつ強靭。
特に日差しが強くなる季節には一番気持ちの良い素材だ。

麻と一口に言ってもイロイロあり、
ざっと7種類ある。すべて種類が違う植物なのだ。

・亜麻(あま)/ Linen(リネン) 亜麻科
・苧麻(ちょま)/ Ramie(ラミー) いらくさ科
・黄麻(こうま) / Jute(ジュート) しなのき科
・洋麻(ようま) / Kenaf(ケナフ) あおい科
・大麻(たいま) / Hemp(ヘンプ) くわ科
・マニラ麻 / Abaca(アバカ) 芭蕉科
・サイザル麻 / Saisal(サイザル) せきさん科

最近のファッション雑誌では、英語の呼び方をよく使っているので、
若い人には馴染みがあるかもしれない。

最も多く衣服に使われているのは、上の二種類。
亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)。
それは、繊維が細いからである。
他の麻はロープや資材に使われている。
最近ではヘンプを混ぜたコットンの糸も作られており、
素朴な風合いがあって、カジュアル衣料に使われている。

ラミーとヘンプは、日本では縄文時代のごく早い時期に
すでに日本全土に生育していたらしい。
日本人にとっても、とてもなじみの深い繊維なのだ。

さて、harukiiでは、たて糸、よこ糸ともに麻を使ったストールを作る。
そこで、リネンにするか、ラミーにするか。
ケナフやヘンプは繊維が太く固いので、
もとより選択肢には入っていない。
harukiiは、お肌のデリケートになってきた人生の先輩方に
巻いて頂きたいのだ。

機屋さんにラミーとリネンの二種類のサンプルを借りた。
ラミーの方は、極細の糸が使ってある。
とても薄く、しっとりした光沢もあって、すごく上品。

片やリネンの方は、ラミーよりいくぶん太い糸を使ってあり、
ラミーと比べると素朴な感じで、光沢も少ない。
しかし、張りの面ではリネンの方が腰があって、フワリと軽やか。

うーん、悩ましい。

そこでいつもの首実検。
実際に巻いてしばらく様子を見る。
やっぱり、リネンの方が少し柔らかいかな。

老母に声をかける。
「ねえ、ちょっと目をつぶってみて。
こっちとこっち、どっちが柔らかい?」
それぞれを首に掛けてみる。
「うーん、そうねぇ。どうかしらねぇ。
うーん、どっちかというと、こっちの方が少し柔らかいかしらねぇ。」

それで、リネンに決まった。
かなり細い番手のラミーで、
若い人には全く気にならない固さだが、
老人の首はわがままだ。
やはりリネンのしなやかさの方に軍配が上がった。

色は桃色、草色、生成り色。
すべて薄い色合いにしたい。
優しい感じに仕上がれば嬉しい。

そして、もう一ひねり。
染める時に、わざとムラ染めにしてもらう。
濃く染まっているところと、薄く染まっているところが
不規則にあるのが望ましい。
ということは、手染めになる。
一枚一枚、手で染めるのだ。
だから、それぞれの染め上がりも違ってくる。
世界でたった一枚のストール。
なんて大げさだけど、でもそういうことだ。

秦さん、宜しくお願いします!



※ 麻の説明に関しては、日本麻紡績協会様のページを参考に致しました。


「2013春夏 細番手リネン平織ストール #2」




6月 いきものがかりの写真日記



2012年6月21日(木)

花が咲いて、あぁここにもあったのか、と気づくのが
「桜」と「紫陽花」。
紫陽花は鞠のような花が密生して咲くので、
大株の木は、それは壮観だ。
花弁に見えるのは、実は咢(がく)らしいが。

この時季、どこからか甘い匂いが漂ってくる。
これは梔子(くちなし)。
ぽってりとした肉厚の花弁が色っぽい。
甘い汁を出しているのだろう、小さな虫がいっぱいついている。
秋にはオレンジ色の実を付ける。
その実は昔から着物の染料や、食品の着色料として使われれきた。

その上を見上げると、もう枇杷(びわ)が生っている。
もう食べごろの色をしている。
一つ落ちてこないかな。

うちの狭い庭にも、梅雨を知らせる花が咲いている。
常盤露草(ときわつゆくさ)。
ぱっちりと開いた、無垢な花。
葉が一年を通して青々しているため、「常盤」とつけられたそう。
露草と常盤露草は、夏の花で一番好き。

今日はとんぼもやってきた。
とんぼは前にしか進まず退かないことから、
戦国時代、不退転の精神の象徴として武具や衣服の装飾に用いられた。

とんぼがじっとしているものだから、
いろんな角度から撮ってみた。

まず、横から。
尻尾をそり上げて、カッコいい。すごい背筋力だ。

そして、真上から。
お腹の白い腹巻で、下っ腹に力が入っている感じがする。

さぁ、今度は正面から。

胴体と比翼の比率が美しい。
にらめっこしたいが、相手の表情が分からない。
第一、とんぼは笑わない。

地面には、ダンゴムシがいっぱい這い回っている。


・・・・・・逃げられた。



花やらとんぼやらを夢中で撮っていたら、
後ろから声をかけられた。

「ワシも撮れ」
うちに古くからいる、中国生まれの番馬。
啼かないし動かない。なつきもしない。
でも、うちで一番気品がある。
雨ざらしになっていても、蜘蛛の巣が張っていても、
あくまで誇り高い。

うちにも、いろんないきものがいる。
静かに元気にしている。
みんないい子だ。




風の各駅停車



2012年6月20日(水)


夕べから夜中にかけて、台風が駆け抜けていった。
東京の空は明るくなってきている。

私もこのごろ、駆け足になっている。
実際に走っているわけではなく、
慌ただしく動き回っている、という意味。

去年の私は、じっとしていた。
じっとして、羽を休めていた。
そして、待っていた。
ただ、じっと待っていた。
風も起こさず、雨も降らさず。
目を閉じて、耳をふさいで、
私は何かをじっと溜め込んでいた。
情報はすべて頭の上を素通りしていった。

そして、今。
気が付いたら私は駆けている。
人が見たら、ゆったり歩いているようでも
私にとっては駆けている。
台風に比べたら、
私の駆け方は、風の各駅停車ぐらいだ。
なんだ、それじゃぜんぜん駆けてないじゃない。

いやいや、これでも駆けている。
風の各駅停車は、景色がはっきり見える。
匂いや音も感じられる。
このスピードが一番いい。
それぞれの駅で一つずつ止まって、
またゆっくり発車する。
私がじっくり溜め込んだものは
このスピードに足るだけの燃料だった。


そういえば、最近ちょっと燃料不足になっている感じがする。
この辺りでちょっと止まってみようか。
途中下車して、まわりの景色をゆっくり眺めてみようか。
風が休むと、何者でもなくなるけれど
それでもいい。
少しだけ止まってみよう。

今度は目を開いて、耳を澄まして
じっとしていよう。
もう溜め込まなくてもいいだろう。
燃料は、まわりに満ちていることが分かった。




2013春夏 ジャカードストール #3



2012年6月19日(火)

さて、次は素材の選定だ。

目指しているのは、柄はゴージャスだけれど、
軽くて、さらりとした感覚のストール。
四月のお花見ごろ、まだ肌寒い時期に活躍するもの。
ちょっとしたよそ行きに使いたい。
コートはまだ手放せない。
だから襟元で何か春らしくて、
ちょっと気取った雰囲気を出したい。
そんな時に使えるストール。

手元のサンプルは、たて糸もよこ糸もコットンを使っている。
きちんと糊が落ちていて
感触はとても柔らかい。

軽いし暖かいし、首のあたりの感触もとても優しい。
でも、でも、
このストールに欲しい感触ではないんだなぁ。

このストールは柄(がら)が命。
この柄を生かすには、オールコットンでは役不足。
柄をちゃんと出すため、張りがなくちゃ。
ちょっと光沢も欲しい。
もちろん、春ものなんだから、軽やかさも大切。

やっぱり、シルクとリネンかな。

機屋さんに相談する。
「シルクとリネンを使って、軽さと張りを出したいんですけど。」
返ってくるのは、いつもながらの元気な声。
「うん、そうね。あ、それいいかもよっ。」
「柔らかさも出したいのですが。」
「うん、うん。いいね。するってぇとね。。。」
「リネンは細い糸にしたいんですけど、染めるの難しいですよね。」
「うーん、うちの産地じゃ、あんまり細いと切れちゃうからね。
でもね、ん、あ、ちょっとまってよ。じゃぁね。。。」

機屋さんの頭はくるくる回る。
ノッているのが分かる。
そう、この機屋さんはクリエーションが好きなのだ。

できること、できないことがある中で、
こちらの求めるものを感覚的に理解し、ピタッと寄せてくる。
いつもながら、「頼れるなぁ」と思う。

結局、よこ糸を何種類か変えて、試織してもらうことになった。
今日、色を決定し、サンプルの発注書を送る。
選んだ素材が合っているかどうか。
また、楽しみが一つ増えた。

リネンの畑の写真

※ リネン = 亜麻。アマ科の一年草。茎の部分を加工して、繊維として使用する。吸水性、通気性に優れていて、なおかつ強靭でしなやか。下着や寝具にも適している。寒い地方で栽培される。主にフランス北部、ベルギー、ロシア、東欧諸国、中国。日本では1960年代半ばまで、北海道で栽培された。その後、化学繊維の台頭で、徐々に栽培されなくなった。種から油(亜麻仁油)が採れる。


「2013春夏 ジャカードストール #1」 





2013春夏 ジャカードストール #2



2012年6月18日(月)

糊抜き加工されて、再び手元に戻ってきた。
まだ反物のままである。
これを一枚一枚切り離して、
ストールとしての風合いや分量、そして色合いを確かめてみる。

織物は、糸に糊を付けてから織ることが多い。
それは、糸を固くして、
織機に掛けてぐっと引っ張ったり、機械の速いスピードでヨコに飛ばしても、
糸が切れないようにするためだ。

だから、織りあがった生地は、ごわごわしている。
商品に仕上げるには、糊を洗い落し、乾燥させ、
商品によっては、ピタッとプレスをかける。

ここまでは、反物のまま加工する。
先染めのストールの場合は、このあと一枚一枚切り離し、丁寧に畳む。
そして、最後に洗濯表示やタグなどを付けて、やっとお客様の手元に届く姿になる。

※先染め(さきぞめ) = 最初に糸を染めてから織ること。縞模様や格子柄、ジャカード織がそれに当たる。それに対し、生地を織った後で生地全体を染めるのを「後染め(あとぞめ)」、生地に柄を載せるのを「プリント染め」という。

反物からストールを切り離す作業なんて、
なかなか体験できない。
今回は特別にお願いして、やらせてもらう。

撚ってある房のところを、長さを一定にしながら
裁ちばさみでジョキジョキ。
今まで生地だったものが、
房が一本ずつ分かれたとたん、ストールに変る。
その瞬間が楽しい。
職人さんは正確さとスピードが大切だから、
こんな風に楽しんで切ってなんかいられないだろうな。

出てくる出てくる、色の川。
たしか10通りの配色があったはず。
その中から、3通りの色を選ぶつもりでいる。
私の心に留まるのは、どの配色だろう。

来年の桜のころ、花の下で、
素敵な紳士がこのストールを巻くのを想像しながら、
色を選びたい。

「2013春夏 ジャカードストール #1」

「2013春夏 ジャカードストール #3」 

「2013春夏 ジャカードストール #4」


あかちゃん Ⅰ



2012年6月17日(日)

天気の良い日に、いつも室内に置いている花を外に出しておいた。
いつも日当たりが良い場所に置いてはいるが、
やはり、時には直射日光が必要だろうと思って。

一日ベランダに出しっぱなしにしておき、次の朝見てみると、
花の色が完全に変わっていた。

室内に置いてあったときは、薄い桜色だった。
どちらかというと、桜貝のように、儚い感じのピンクだった
それが、まったく濃い色に変わっているのだ。



よく見ると、日光が当たっているところだけが赤くなっている。
まるで、日焼けのように。
更によく見ると、茎や葉までうっすら赤みを帯びている。
こんな風に花の色が変わるのは、初めて見た。
体内に持っていた赤い色素が、太陽を浴びたことによって
表面に滲み出てきたかのようである。

どんな植物でも、必ず赤い色素をもっているような気がする。
特に樹木が芽吹くときとき、エネルギーを持った新芽の先から
赤い色がほとばしり出ているのを見る。
生きようとしているのだと、強い意志を感じる。

人間も、生まれたての嬰児は赤い。
文字通り、赤ちゃんだ。
その赤ちゃんが、自分の要求を満たそうと必死になって泣き叫ぶとき、
顔や体はいっそう赤くなる。
赤というのは、始まりの色、誕生の色、そして生きるエネルギーの色なのだ。

いつか赤いストールを作ってみようか。
何かを始める時、それをさっそうと羽織ってみたい。





フランス語って、不思議だ



2012年6月16日

                                                              photo by Cyril Plapied



昨日見つけた松岡株式会社の kibiso のプロモーションビデオ
全編ナレーションは男性のフランス語で入っている。

これが、ドイツ語やイタリア語じゃないのはどうしてだろう。
スワヒリ語やタガログ語、ロシア語やスウェーデン語じゃないのは
どうしてだろう。

いろいろな言語で想像してみるが、
やはりフランス語だろうな、と思う。
どうしてなんだろう。

あくまでも主観だけれど、
他の言語だと、どうしてもその国の文化というか
人間の匂いのようなものが立ち昇ってくる。
言葉より人間のほうが前面に出てくる感じ。

しかし、フランス語から立ち上がる匂いは
香水であったり、ワインの香りであったり、
何か妖精のような、言葉では言い表せないが、
音楽のようなものが感じられる。

決して人間臭さではない。
生物の体温が感じられないのだ。
言っている内容は生臭いことや暑苦しいことを言っていたとしても、
あのことばを聞いていると、なぜか臭いや温度が消されてしまう。

言語の温度が低い。
どういうことだ?

3月に香港に行った。
その時、姉と姪の三人で入ったファッションモール。
姪が3月末に控えていた親戚の集いに来ていく洋服を
三人で探していた。
その時聞こえてきたのが、
「Ge, ge, gegege no ge」というフランス語の囁くような女性の歌声。
三人、思わず耳を澄ました。
ゲゲゲの鬼太郎のフランス語バージョンである。
「Ge, ge, gegege no ge」以外は、すべてフランス語。
あの歌詞を直訳しているのかどうか全く分からない。
とってもおしゃれなボサノバに聞こえ、びっくり。
そして大笑い。
その後は三人で、いかに「Ge, ge, gegege no ge」をフランス語っぽく発音するかで
大盛り上がりした。

姉の家に戻ると、早速姪がYoutubeで探してくれた。
歌っているのは、クレモンティーヌ。
もうずいぶん前に発売されたCDらしい。
いろいろなアニメソングをボサノバ風に歌っているが、
私の一番のお気に入りは、「Bon, bon, baka-bon, baka-bo, bon」。
天才バカボンの歌だ。
たしか Bon はフランス語で「良い」といういう意味。
「良い馬鹿、良い馬鹿、良い馬鹿馬鹿」と言っているのか。

しかし、気になる。
フランス語はなぜ、インテリアやBGMのように
背景に溶け込むものとして使えるのだろうか。
言語学的、音感学的根拠がきっとあるのだろう。

フランス人にとってのそんな言語は、何語なんだろう。
意味はよくわからないが、耳に心地よい言語。
彼らにとって音だけを楽しむ外国語はあるのだろうか。
そして、日本語はどんなふうに聞こえているのだろう。

フランス語は、不思議な言語である。
いつか話せるようになってみたい。
まずは、Bon, bon, baka-bon, baka-bo, bon から始めようか。

● クレモンティーヌのゲゲゲの鬼太郎はこちら >>>>>
● クレモンティーヌの天才バカボンはこちら >>>>>




続々・山形県鶴岡市に行ってきた



2012年6月15日(金)

最後にプリント工場を見せて頂いた。

有限会社芳村捺染(なっせん)。
社長の芳村貞夫氏は三代目。
明治時代から横浜からシルク製品が多く輸出され、
芳村捺染もその時代にプリント事業を始めた。
それ以来、捺染一筋。
スクリーン捺染を中心に、スカーフ生地へのプリント、
そして縫製・仕上げまでを行っている。

※ スクリーン捺染=型染めのこと。
大きな枠に「紗(しゃ)」という粗い目の布を張り、そこに柄を焼き付ける。
染めたい生地の上にその枠を乗せ、その上から糊と混ぜられた染料を塗ると、
柄の焼き付けられていない個所のみ、染料が紗を通って下の布に付着する。

見せて頂いたのは、手捺染の一連の工程。

まず、お客様の希望の柄をスキャナーで読み取って、
使用してある色のデータを取り込む。
ここが唯一、コンピュータテクノロジーを使った工程。

コンピュータではじき出されたデータをもとに、
原色の染料(粉状)を分量通りに量り、混ぜ合わせ、
それを溶かして洗液とする。
すべて手作業。

ガスコンロの上で洗液を溶かしているところ。

洗液に糊剤を混ぜ合わせ、どろりとした洗液を作り、
寝かせる。

いよいよ染めの工程。
スクリーンをシルクの生地の上に置き、
そのの上に洗液を置いて、大きなへらで
上から下へ一気に塗る。
スカーフ一枚一枚、手で染めていく。
スクリーンを置いて、染料を塗り、
次の個所にスクリーンを置き直してまた上から下へ。
その間、約4~5秒。
身体全体を使って、動きはしなやかでリズミカル。
若い職人さんは力いっぱい、
そして先輩の職人さんは力まずスーッと。
どちらの動きも、いつまで見ていても見飽きない。

多色染めは、一度染めた柄の上にまた別のスクリーンを
寸分ずれないように置き、
別の色を乗せていく。
色数が多いほど熟練が必要になる。
職人になりたての頃は、一色のハンカチから始めるそうだ。

柄が大きい場合は、スクリーンも大きくなる。
そのため、二人、三人がかりで染めることになる。
息がぴったり合わなければならない。

染め終わった布は、この器具に巻きながらぶら下げられる。

そしてこの大きな蒸し器に入れられて、蒸される。
そうやって、染料が生地に定着する。

この後生地は羽前絹練に送られ、糊が抜かれ、
綺麗にプレスされる。
そして、また芳村捺染に戻り、裁断し、縫製されて、
やっとスカーフが出来上がる。

ここまで手作業が多いとは思わなかった。
そして、芳村さんでも若い職人さんが多く働いていた。
それも、女性の数が多かった。
みなきびきびと、生き生きと働いていた。
見ているこちらも楽しくなった。

出来上がったスカーフは、
まるで手作業とは思えない正確さで柄が染め抜かれている。
いや、手作業だからこそ正確なのかもしれない。
人間の五感をフルに使って、
そしてその感覚を体に叩き込んで
職人さんは機械よりも正確に生地を染めていた。

一体、蚕が糸を吐いてから、一人の消費者の手に製品が渡るまで
何人の職人さんの手を通るのだろうか。
こんなに一生懸命、丁寧に
そしてそれぞれの職人さんが一生かけて習得した技術を使って
つくられたストールやスカーフ。
私もデザインして売る側だが、
一消費者として、大切に大切に使わなければと、
改めて思う。


*********

今回の山形の旅では、一枚の製品が出来上がるまでの
数々の工程を見せて頂いた。
普段はなかなか見せて頂けないところを
みなさんのご厚意で、写真まで撮らせていただき、
そして、こうしてブログに公開することも快く承諾して下さった。

皆さんが異口同音におっしゃった。
「昔は見せなかったと思いますよ。
でも、いまはそんなこと言っている時代じゃない。
みなで技術を共有して、業界全体助け合って生き残らなきゃならない時代。
それにね、ちょっと見ただけで技術は盗めるものじゃないからね。
私たちも、自信ありますよ。」

今残っている工場さん、職人さんは、
世界一の技術を持っていると思う。
私はそれを誇りに思うし、
日本に生まれ育ったことを、素晴らしく幸運だと思う。

● 有限会社芳村捺染 http://ww5.et.tiki.ne.jp/~houson/yn/





続・山形県鶴岡市に行ってきた



2012年6月14日(木)




羽前絹練(うぜんけんれん)株式会社を見学させて頂いた。
精練(せいれん)を専門に行う会社である。

繭から取ったばかりの生糸はごわごわしている。
セリシンという蛋白質が外側にたっぷり付いているからだ。
柔らかい糸や生地を作るためには、
そのセリシンを取り除く必要がある。

そこで、糸や生地を「練る」という作業を行う。
これを精練という。
絹を煮てセリシンを溶かし出すのである。

私は、精練は染色をする会社が前工程として行うものだと思っていた。
もちろん、その設備がある染色会社もある。
しかし、ここは鶴岡である。
ちょっと前、絹織物が日本の基幹産業であった時代
その生産量の多くを担っていた土地である。
どんな工程にも専門の会社があり、職人を多く抱え、
夜も日もなく機械を動かしていたのである。
羽前絹練の立派な武家屋敷を思わせる玄関を入り、工場内を見せて頂いたとき、
過ぎし日の繁栄ぶりを思わずにはいられなかった。

まず、入って心打たれたのは、美しく輝く木造の廊下である。


この会社は全体が木造で、古い学校の校舎のようである。
事務所も応接室も、すべて木。
聞くところによると、応接室は総檜だそうだ。
豪奢きわまりない。

羽前絹練に運び込まれた、絹の生地。まだセリシンがたっぷりついている。
ロールケーキのように巻いて、吊る。
お湯に浸すまえの準備工程である。
それを、大きな釜に入れて、煮る。
ここで、セリシンが溶け出していく。

多くの精練工程では、煮出すときに苛性ソーダを入れる。
そうすると、時間が短縮され、エネルギーも節約される。
しかし、羽前さんでは昔ながらの石鹸練りを守っている。
時間がかかるが、仕上がりがしっとりなめらかなのだそうだ。
ゆっくり時間をかけてお風呂に入るようなものなのだろうか。

練りムラを防ぐためには、お湯に浸けっぱなしではいけない。
やはり、人力で布を揺すらなければならない。
力のいる作業である。
作業場は暑い。真夏は塩を舐め舐め仕事するそうである。

セリシンを落とした生地は、乾燥、プレスを施し、
染色工場へ送られる。

写真は染色工場で染められた生地がまた羽前絹錬に戻り、
糊を洗い落し、最後の仕上げを施されているところ。

洗いっぱなしの風合いを出すために、だら干しをする部屋もある。
※だら干し=プレスせず、自然乾燥させること。自然の皺が残る。

古くから使用しているだら干し専用の部屋で、旧来通り竹の竿にかけて干す。
窓が大きくとってあり、風通しの良い部屋だ。
昔の職人さんの掛け声が聞こえるようだ。

羽前さんで気が付いたのは、
若い職人さんがきびきびと働いていることである。
これは、繊維産業ではとても貴重なこと。
羨ましいと思う産地も多くあるだろう。

絹の薄地を生産する産地は、山形のほかにもいくつかある。
しかし、その精練をする会社は、なんと羽前さん一社になってしまったそうだ。
日本でたった一社のみである。
だから、羽前さんには各地から生地が運び込まれる。
若い職人さんを育てる責任を、羽前さんは感じていらっしゃるのだろう。
もうこれは一社の問題ではない。
産地だけにも収まらない。
日本全体の繊維産業の問題なのだ。

今残っている工場は、本当に世界一の技術を持っているのだ。
それを若い人にもっと知ってもらいたい。

● 羽前絹練株式会社 http://www7.ocn.ne.jp/~uzscour/



山形県鶴岡市に行ってきた



2012年6月13日(水)

米沢を出た後、日本海の方へ北上し、庄内平野を訪れた。
この平野は山形一の広さを誇るという。
本当に、広い。
空はどこまでも広く、海から吹く風は彼方の連峰に向かって気持ちよく吹いていく。
ここは山形県鶴岡市。庄内平野の南に位置する。

その昔、鶴岡には鶴ヶ岡城があり、庄内藩の城下町として栄えた。
そのころのことを題材に多くの小説を書いているのが
私の大好きな藤沢周平である。

しかし、今回は藤沢周平の世界に浸る時間はない。
とある理由で、予習も不十分である。
今日は見る、見る、見るの一日となる。
絹織物の製造工程を見て回るのである。
こんなチャンスはめったにない。
貴重な時間、限られた時間を使って、どこまで吸収できるか。

まず訪れたのは、絹糸を作る「松岡株式会社」。
製糸工場といえば、明治5年に創業した、富岡製糸場が有名である。
ピーク時には国内に43万軒もあった製糸工場は、現在2社しかない。
そのうちの一社が松岡株式会社である。

鶴岡には製織部門があり、シルクのスカーフなどの生地を織っている。
生糸をボビンにまき直し、たて糸を準備する工程を見せて頂いた。

生糸を大枠からボビンに巻き取っているところ。

ボビンを並べ、たて糸用に引き出していく。

ボビンから引き出された糸を、整経機に巻き取っていく。

整経機に巻き取る前に、綜絖(そうこう)という大きな櫛の目に糸を通す。
この作業は、どんな近代的な工場でも、人の手に頼らざるを得ないということだ。

写真ではよく見えないが、
ごくごく細い糸が切れることなく巻き取られていく。
たて糸は数万本という気の遠くなるような数。
しかし、工場の中は思ったよりずっと静か。
織る前の工程は、音が立たない。
というより、絹糸に無理な力がかかったり、
どこかに引っかからないよう、
すべての工程を糸が滑らかに通過するように
道具を工夫してあるのだ。

その工場で、細くて整った生糸とは対照的な
「kiboso」という太い糸を見せてもらった。
きびそは、繭が糸を吐き始める時に出す、粗い糸。
吐き始めなので、蛋白質が多く含まれている。
しかし、その部分は粗野で生糸に使えない。
そのきびそだけを集め、紡いで作ったのが「kibiso」なのである。

太くてしなやか。
荒々しくて、温かい。
何ともいえず風合いの良い糸だった。

大起業で大きな工場と多くの社員を擁す企業が
効率だけを追求していては生まれないであろう
このような手紡ぎの風合いを残した糸を開発している。
旧来のやり方を変え、新しいことに挑戦し続けている会社だけが、
今の日本に残っているのだ。

● 松岡株式会社 http://www.matuoka.jp/
● kibiso tsuruoka silk   http://kibiso.jp/

★ kibiso のトップページ左下にある動画を、ぜひ見てください。
素晴らしいんですから。出来れば音付きで。
上質のショートフィルムを見ているようです。