続・山形県鶴岡市に行ってきた



2012年6月14日(木)




羽前絹練(うぜんけんれん)株式会社を見学させて頂いた。
精練(せいれん)を専門に行う会社である。

繭から取ったばかりの生糸はごわごわしている。
セリシンという蛋白質が外側にたっぷり付いているからだ。
柔らかい糸や生地を作るためには、
そのセリシンを取り除く必要がある。

そこで、糸や生地を「練る」という作業を行う。
これを精練という。
絹を煮てセリシンを溶かし出すのである。

私は、精練は染色をする会社が前工程として行うものだと思っていた。
もちろん、その設備がある染色会社もある。
しかし、ここは鶴岡である。
ちょっと前、絹織物が日本の基幹産業であった時代
その生産量の多くを担っていた土地である。
どんな工程にも専門の会社があり、職人を多く抱え、
夜も日もなく機械を動かしていたのである。
羽前絹練の立派な武家屋敷を思わせる玄関を入り、工場内を見せて頂いたとき、
過ぎし日の繁栄ぶりを思わずにはいられなかった。

まず、入って心打たれたのは、美しく輝く木造の廊下である。


この会社は全体が木造で、古い学校の校舎のようである。
事務所も応接室も、すべて木。
聞くところによると、応接室は総檜だそうだ。
豪奢きわまりない。

羽前絹練に運び込まれた、絹の生地。まだセリシンがたっぷりついている。
ロールケーキのように巻いて、吊る。
お湯に浸すまえの準備工程である。
それを、大きな釜に入れて、煮る。
ここで、セリシンが溶け出していく。

多くの精練工程では、煮出すときに苛性ソーダを入れる。
そうすると、時間が短縮され、エネルギーも節約される。
しかし、羽前さんでは昔ながらの石鹸練りを守っている。
時間がかかるが、仕上がりがしっとりなめらかなのだそうだ。
ゆっくり時間をかけてお風呂に入るようなものなのだろうか。

練りムラを防ぐためには、お湯に浸けっぱなしではいけない。
やはり、人力で布を揺すらなければならない。
力のいる作業である。
作業場は暑い。真夏は塩を舐め舐め仕事するそうである。

セリシンを落とした生地は、乾燥、プレスを施し、
染色工場へ送られる。

写真は染色工場で染められた生地がまた羽前絹錬に戻り、
糊を洗い落し、最後の仕上げを施されているところ。

洗いっぱなしの風合いを出すために、だら干しをする部屋もある。
※だら干し=プレスせず、自然乾燥させること。自然の皺が残る。

古くから使用しているだら干し専用の部屋で、旧来通り竹の竿にかけて干す。
窓が大きくとってあり、風通しの良い部屋だ。
昔の職人さんの掛け声が聞こえるようだ。

羽前さんで気が付いたのは、
若い職人さんがきびきびと働いていることである。
これは、繊維産業ではとても貴重なこと。
羨ましいと思う産地も多くあるだろう。

絹の薄地を生産する産地は、山形のほかにもいくつかある。
しかし、その精練をする会社は、なんと羽前さん一社になってしまったそうだ。
日本でたった一社のみである。
だから、羽前さんには各地から生地が運び込まれる。
若い職人さんを育てる責任を、羽前さんは感じていらっしゃるのだろう。
もうこれは一社の問題ではない。
産地だけにも収まらない。
日本全体の繊維産業の問題なのだ。

今残っている工場は、本当に世界一の技術を持っているのだ。
それを若い人にもっと知ってもらいたい。

● 羽前絹練株式会社 http://www7.ocn.ne.jp/~uzscour/



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