2012年6月6日(水)
明日から二泊三日で、山形県に行く。
数年前、仕事が過剰に忙しかったころ、
藤沢周平を夢中になって読んだ。
なぜ時代小説、なぜ藤沢周平。
それは、時代小説にはカタカナ文字が出てこないから。
メールとかモバイルとか、
コンセプトとかアイデンティティとか。
トマトやオムレツさえ出てこない。
木と紙と石と土でできた家に住み、わずかな魚と青菜の煮付けに漬物、という
簡素な食事だけで身体を養い、毎日の重労働を淡々とこなす。
和語だけで語られる世界は、静かで落ち着いている。
とりわけ、藤沢周平の文体は平易で読みやすい。
そして武士の形式ばった言葉にも、農民の土地の言葉にも
柔らかな優しさがほとばしる。
今思えば極度に疲れていた私は、
武士の時代の小説に癒しを求めていたのだ。
藤沢周平は遺作となった長編小説に、
米沢藩の第九代藩主、上杉鷹山の施政を描いた。
貧困にあえぐ藩の窮状を救う手立てとして、
新たに産業を興すことを考えた。
その一つが、桑の木の育成、そして養蚕である。
今日米沢が絹織物の有数の産地となったのは、
この時代に鷹山が思い切った施政を行ったためである。
この時代の人々が歯を食いしばって新たな産業を興したからこそ、
今私たちは、米沢の美しい絹織物を楽しむことができる。
今の贅沢が昔の人々の苦労の上に成り立っているということを
きちんと知っておくことは、その価値を知るうえで大切なことだと思う。
明日の新幹線の中で、再びこの長編小説
「漆の実のみのる国」(上下)を読んでいこう。
そして、そのあと目にするであろう様々の絹織物を、
感謝の気持ちをもって手に取ろう。
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