髪を切った



2012年6月10日(日)



彼はいきなりこう言った。

「あたま。おっきいじゃないですか。ねぇ?」

そして、両手で頭蓋骨をしっかり包み込み、
カボチャを値踏みするようにこねくりまわし、
櫛で髪をあっちへやったりこっちへやったり、ひとしきりして、
「思い切って切っていいですか?」

私の中に大きな安堵感が波のように広がる。
笑いが込み上げる。
ああよかった、ここにきて、この先生に頼んで。

8ヶ月ぶりに髪を切ることにした。
それまで通っていた美容室と違うところにしようと決めていた。
今までの自分を卒業して、次のフェーズに入る。
なんだかそんな気分だった。

思い切って、東京に6店舗を持つ美容界の大御所、
カットの神様に予約を入れた。
どんなふうにオーダーすればよいのだろう。
なんせ大御所である。予約がぎっしり入っている。
一人にかける時間は少ないに違いない。
好みや希望をテキパキと伝えないと怒られるだろうか。
もたもたしてしまったらどうしよう。

そんな不安は杞憂だった。
彼は冒頭のように時間をかけて私の頭を手と目で確かめ
一番似合う髪型を決めてくれた。

美容院で一番嫌なのは、
お客の機嫌を損ねないようにその欠点に決して触れず、
お客の希望を探りながら、
結局、可でもなく不可でもない髪型に仕上げられることだ。

美容師さんは医者と同じ。
悪いところにズバリとメスを入れ、患者の悩みを解決する。
いや、悪いところを直すだけではなく、
自分が気づかない魅力を引き出していく。
そんな美容師さんを求めていた。
だからこそ、思い切って「神様」に身を委ねたのだ。


大御所先生はあっけらかんと私のアタマの欠点を挙げ連ねる。
そばにいるお弟子さんに
「ほら、形悪いでしょう。こういう形の悪い頭の場合はね」と触らせる。
やれやれ、もっとやれ。
ますます愉快になる。

かくして私は再びショートヘアの女になった。
今までよりずっと頭部のボリュームが小さくなった。
あごや首がすっきり見える。
快活でキュートで、なおかつちょっと色気もある、と思う。
ああ、やっぱり私に似合うキャラクターはコレなんだ。
このセンで行けばいのだ。

これでしっとりとした熟女を目指す必要はなくなった。
無理してゴージャスなジュエリーの似合うマダムになる必要はなくなった。
そんなキャラクターはアンタではないと、
しっかり引導を渡してもらったのだ。

大人になりきれないオバサン。
一見不安定なキャラクターのようだが、
私にはやっと落ち着く場所が決まった気がする。
ありがとう、カットの神様。
ありがとう、私。




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