裸の富士山



2012年8月26日(日)

昨日は、富士山の日だった。

空は快晴。
雲も白くくっきりぽっかり浮かんでいる。
いつものように、武藤さんが車で駅まで来て下さる。

道すがら。
あ、あれ?
なに?
あのなだらかな山。
なに?

富士山だ。
雪のない富士山。
そうだった。
8月に見る富士には、雪がないのだ。
あぁ、これが富士山の裸の姿なんだ。

いつもの雪をかぶったイメージを押しやり、
目の前の畏形を富士山として認識しようとするが、
なかなか上手く行かない。
いくぶん逆光気味なので、山肌の凹凸がわからず、
二次元の切り絵のように見えてしまう。

武藤さんが、写真の絶景ポイントに寄って下さった。


なんというタイミング。そして、神業。
雪のない富士山を青い空から浮かび上がらせるかのように、
白い雲が稜線を縁取ってくれた。

山肌は緑で覆われ、
頂上付近にかすかに雪が残っている。
この雪は、一年中解けないのだろう。

雪のない富士山。
それを目の前にしているにも関わらず、
私の脳みそはまだこれを富士山と認識できない。
認識したとたん、「感動」というスイッチが入るはずだが、
戸惑っているためか、感情がわからない。

目の前の優美な山は、
裸のまま威厳を湛え、
そこにただある。
私は呆然とするのみだ。

富士の畏形を目に焼き付け、
車は出発した。
振り返ると、向こう側にあった雲がこちらに掛かってきて、
あっという間に中腹を覆ってしまっていた。

雲から頭だけ出した富士山は、
私にとってやっといつもの富士山に戻った。

さっき見せてくれた裸の富士の姿。
私に語ってくれたものは、何だったのだろう。
きっとこの夏の、大切な宝物になるものなのだろう。



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