2012年9月6日(木)
昨日さっそく、わかってしまった。
それもあっけなく。
ギフトショーの初日に、3人組の男性がブースに入って来られた。
繊維のことがよくわかっていらっしゃる風。
リネンのストールを触って、何か囁いていらっしゃる。
「何かお探しですか?」
振り返った男性のネームカードを見て「あ」と思った。
リネンの糸を作っている大会社である。
「もしかして、うちの糸を・・・」
「はい、使わせて頂いております。」
「あぁ、やっぱり。」
「今回使ったリネンは、すべて御社の糸です。」
「そうですか。有難うございます。織りはどちらで?」
「はい、今回はすべて山梨県で作って頂きました。」
「はぁ、そうですか。なるほど。」
それから男性達は再びリネンのストールを確かめ、
何度もお礼を言われて、
ブースを去っていった。
そして、展示会終了間際。
少しだけブースを片付け始めた頃。
一人の男性が入って来られた。
「変わりヘリンボン」や「ジャカードストール」を丹念に見ておられる。
「あの、何かお探しですか?」
「実は、先ほどうちの社のものがこちらのブースに参りまして、
ぜひ見て来いというものですから。」
先ほどのリネンの会社の方である。
それも、役員様。
「まぁ、そうですか。それはそれは、どうもわざわざ有難うございます。」
「変わりヘリンボン」、「ジャカードストール」、「リネン平織りストール」、
この三点を指し示し、
「こちらに御社の糸が使ってあります。」
「あぁ、そうですか。」
こちらでわざわざお教えしなくても、すでに分っていらっしゃる。
先ほどの3名様を含め、リネンのベテランとお見受けする。
「こちらのブランドは、
お年の上の方に身につけて頂きたいと思っているんです。
それで、素材の柔らかさには、特にこだわって材料を選んでいるんですよ。
御社では、すごく細いラミーも作っていらっしゃいますね。」
「はい。作っています。300番まであります。」
「ええ?? そんなに細い番手まであるんですか?」
「はい、ありますよ。」
「そうなんですか。
実はラミーも艶があって綺麗なので、最初使おうかと思ったのですが、
リネンと比べた時に、リネンの方がより肌に優しかったので、
こちらにしたんですよ。」
「あぁ、そうだったんですか。」
ここで、はっと思った。
聞いちゃおうか。聞いちゃおうか。
うん、聞いちゃおう。
「あのう、このリネンの原産国を教えて頂くことは、可能なんでしょうか。」
「はい。フランスです。」
あらら。
あっさり。
「フランスでもまだリネンを作っているんですか?」
「作っていますよ。フランスとベルギーですね。
フランスの北の方、いわゆるノルマンディといわれる地方ですね、
それからその北のベルギーでリネンを栽培しているんですよ。」
「そうなんですか。
うちの商品は、原料の採取国から、最後は下げ札をつけるところまで、
その工程すべてどこで行われているか、お客様にお伝えするんですけれど、
リネンだけは、国が特定できなかったんです。
紡績は日本だということは分かっていたんですが。」
「あぁ、国内紡績なら、間違いなくフランス原産です。」
「そうなんですか。あぁ、良かった。嬉しい。
それを、知りたかったんですよ。」
リネンの種が蒔かれた場所。
あっけなく、分ってしまった。
「あのう、このこと、お客様に公表してよろしいでしょうか。」
「ああ、いいですよ。なんなら、原産地証明書をお送りしますよ。」
すごいすごい。
企業秘密かもしれないと心配していたが、
杞憂だった。
こんなに気持ちよく教えて下さるなんて、ちょっと驚き。
そうか。
繊維業界も、最近すごく変わっているんだ。
10年ほど前は、まだまだ閉鎖的で、懐疑的だった。
原産国を聞こうものなら、
(何でそんなこと知りたいんだ。同業者か? 他に漏らすかそんなこと。)
というような顔をされ、教えてもらうのは到底無理だった。
でもこの頃は、根掘り葉掘りどんなことを伺っても、
とてもオープンに答えて頂ける。
情報開示も許される事が多い。
そう、情報を開示しても、技術と技量は盗まれない。
ノウハウは分られても、同じものは作れないのだ。
そういう自信があるから、情報を開示できる。
言い換えれば、今繊維業界で生き残っている会社は、
そういう確とした自信のある会社のみなのだろう。
確かな技術と品質の高さ、そして正直さ。
それを矜持高く保っている会社だけが、
世界にも競争力を持っている。
繊維業界にとってはとても厳しい時代だが、
そこに生きる人間にとっては、気持ちのいい時代になってきた。
風通しがいい。
それなら、大丈夫。きっと細く、強く、しなやかに生きていける。
私には、将来明るく見える。
本当にいい時代になってきた。
「製品の出自と道のり」
「2013春夏 細番手リネン平織ストール #1」
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