見合う



2012年9月30日(日)

夕べは待宵(まつよい)。
満月の前夜である。
月が見えないか、外に出てみた。
曇っている。
どこに月があるのだろう。

月を探すとき、光る二つの眼に会った。
猛暑のこの夏から、時々うちの温水器や塀の上に
むっくりと猫がいる。
何猫というのだろう。
普通の、よくいる猫だ。
目の割合が顔の面積に対して大きい。
まだ成猫ではないのだろう。

私の家では、動物を飼ったことがないので、
猫との付き合い方は全く知らない。
だから、あちらがどう考えているか、全く分からない。
ちょっとかわいいな、とは思うが、
その距離を縮めようとは思わない。

猫の方には、警戒心はあるのだろうか。
かなりリラックスした体勢で、こちらを見ている。
逃げようというそぶりは見られない。
最近何度か見合っているので、
少しは私に慣れたのだろうか。

ペットを飼っている人は、
この猫が飼い猫かそうでないか、分かるのだろうか。
なぜうちが気に入ってしまったのだろう。
他に家はあるのだろうか。

猫は、私をじっと見ている。
月が雲に隠れているので、その姿ははっきりしない。
しかし、こちらをじっと見ているのは分かる。
私もじっと見返す。
掛けようとする言葉も見つからない。
ただじっと見合う。
猫は微動だにしない。

月夜の猫の写真を撮ろうと思った。
家に入り、iPhoneを持ってくる。
その間も、猫は動かない。
私の動きを目で追っている。

iPhoneを向けてみる。
じっと見ている。
シャッターを押してみる。
シャッター音に瞬きもしない。
続けて押してみる。
じっとこちらを見ている。

暗闇で、猫の姿ははっきりしない。
ましてiPhoneでは、鮮明に写らない。
でも、ストロボを焚く気にはならない。
相手を驚かせてまで、写真を撮りたいとも思わない。
ただ、猫とiPhoneと私と
5つの眼が互いに意味なく見合っていることが、面白かった。
なんとなく、それでお互いに通じ合っている気がした。

今朝写真を撮り直そうかと思って、NIKONを下げて外に出てみた。
もう猫はいなかった。
きっと、帰る家があるのだろう。
今頃、朝食をもらっているのかもしれない。

結局夕べは月を見なかった。
今夜は台風が東京を直撃するらしい。
満月は見られないだろう。
台風では、猫も来ないだろう。
こんどは、いつ会うのだろう。




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