OIL (オイル)



2012年9月17日(月・敬老の日)

今日は敬老の日。

「我が家には老人はいない」という有難い一言で、
うちでは何も変わったことのない月曜日となる。

「老いる」というと、私は京都の『OIL』というバーを思う。
英語で【油】という意味だ。
知人がやっている。
もっと言えば、友人のご主人がやっている。

私は、『OIL』が開店する前から知っている。
このご夫婦、もともと東京に住んでいらした。

ある日電話で、「ダンナが京都に移り住む」という報告を聞いた。
もともと京都にルーツのある方なので、帰るのは不思議ではない。
お仕事も、東京でないと出来ない、というものでもない。

そのうち、すばらしくカッコいい家を見つけて、
ご主人だけ京都に移り住んだ。
友人は自分でも東京に仕事を持っているので、
二つの土地を往復する生活を始めた。

またある日、友人の電話で、「ダンナがジャズバーを始める」という報告を聞いた。
東京の自宅に巨大なスピーカーがあり、
かなり音にこだわった方だとは知っていた。
でも、今の仕事とは全く畑違い。
うまくいくのだろうか、と少し心配だった。

そして、友人の電話のたびに
「いい物件が見つかった」
「いい職人さんが見つかった」
「いいカウンターの一枚板が見つかった」
「いいドアが見つかった」
「いいランプが見つかった」
と、見つかった話ばかり聞かされて、
一向に開店の気配がない。
友人と二人で「このまま、開店準備で終わっちゃうんじゃない?」と
笑っていた。

しかし、ある日本当にオープンした。
もともと、アートというかデザインというか、
ものすごく鋭い感性が求められる仕事をしている方なので、
その内装の拘りようは、半端ない。

そのご主人の仕事ぶりを知っている。
まぁ、その美意識の高さには驚かされる。
東京にいる時、何度かお会いした。
べつに怖い人ではない。
こちらを脅すわけでもない。
無口、というわけでもないが、おしゃべりでもない。
ただ、その仕事振りを知っているので
こちらが勝手に緊張する。
友人が席を立つと、「行かないで」と目で追ってしまう。

そんな人が拘りに拘ったバーであるから、
もう、私なんかは緊張しっぱなしになるのだと思っていた。

ある日、京都に行くことになって、
いよいよそのバーに足を踏み入れた。
もちろん、友人がいる時に。
それも、幸運にも昼間に行くことになった。
明るいのが救いだ。

広い。
空気が流れている感じ。
広いうえに、開放的な広いテラスもある。
ここから大文字の火が見えるそうだ。

テーブル席がある。
ソファもある。
そして、聞いていた長い長いカウンターがある。
その中に、マスターがいつものニットキャップをかぶって立っている。

「あ、いらっしゃい。」
ことさら微笑むわけでもないが、
柔らかい歓待の気持ちが伝わってくる。
なんだ、こわくないじゃない。
気持ちのいい空間に、私はすぐに吸い込まれていった。

日を置いて、別の日。
今度は夜に行ってみる。
カウンターには、常連さんがいる。
端の方に座る。
マスターは、常連さんと話している。
ちょっと、ホッとする。

お客様と、声高に話すわけでもなし、
聞き手に徹するでもなし、
ごく自然体でマスターはそこにいる。

そのやり取りを景色の一部としながら、ウィスキーを口に入れる。
レコードの音が大きいのは仕方がない。
私は普段まったく音楽を聞かない生活をしている。
だから、大きいスピーカーの音には慣れていない。
それに、ここはジャズバーなのだ。

そのうち、マスターが目の前に立つ。
まぁ、目の前というより、隣の常連さんと私の間の、ちょっと私寄りに立つ。
斜めに立つ。
「どうですか。最近。」
いつものように、ボロリとこぼれるような話し方。
「まぁまぁです。」
「まぁまぁですか。いいですね。」
「いいですか。」
「いいですね。まぁまぁが一番ですよ。」

だいたい、そんな会話だ。
すでに心はゆったりと緩んでいる。

京都の町中にある、この贅沢な空間。
そして、夜景。
そして、このカウンター。
そして、この音楽、インテリア。

すべて計算しつくされたような中にいて、
気持ちの良い‘抜け感’がある。
それは、このカウンターの中にこのマスターがいるからだろう。

この『OIL』というバー。
宣伝も何もしていないが、
今では、京都の中で完全にポジションを確立したようだ。
「本当の大人のバー」という。

空気が油のようにとろりと緩やかに流れ、人や物の間で潤滑剤になるようなバー。
京都にこのバーがあることが、本当に嬉しい。



Cafe / Bar OIL
京都府京都市中京区白壁町 442 FSSビル 6F (麩屋町通)
075-241-1355



※今日のブログは『OIL』のマスターに断わりなく書いているので、
もしかしたら後で削除することになるかもしれません。その時は、あしからず。

>>> その後、めでたくマスターの承諾が得られましたので、
削除しなくても済むようになりました♪





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