2013春夏 コットン綾ガーゼ #3



2012年9月9日(日)

あー、なんてこと。
もうもうもう。
はぁ~~~。

今思い出しても、あの時の気持ちがまざまざと甦ってくる。
それは、ちょうど一週間前の、先週の日曜日。
展示会が水曜日から始まるとういのに、まだ8割のサンプルが出来あがらずに、
今か今かとその到着を待っていた朝。
私は勇んで宅配便の「ピンポーン」に階段を駆け下りた。
待ちに待ったサンプルの箱。
ギリギリまで加工に時間のかかったサンプルたちが、
そこに詰められているはず。

急いで箱を開けた。
あれ。あれ。あれはどこだ。
あれ? あれ? あれがない?
ない。ない。ない!

今回、一番楽しみに待っていたもの。
コットン綾ガーゼのストール。
何度見ても、ない。
どこにも、ない。

そして、なぜか、とてもよく似て全く非なるものが、
ある。

これ? これなのか?

一昨日の武藤さんとの電話の会話を思い出した。
「ハロ~。」
調子の良い時の武藤さん。
「どうですか? 仕上がりました?」
「うん、あがったよ。」
「どうですか? どんなふうですか?」
「うーん。なーんか、ねぇ。
ちょっと表情がそっけないかなぁ。
綿が上質だから、優等生に見えて、なーんか面白くねぇかなぁって。」
「あぁ、そうなんですか。原綿が違うと、やっぱり表情も全く違ってくるんですね。」

私がイメージしているのは、クシュクシュっと皺がたくさん寄っている表情だ。
綿は繊維が短いので、洗うと縮む。
ガーゼ調に甘く織ってあると、なおさら縮む。
それがシワになって、面白い。
そして、ものすごく柔らかい。

しかし、おそらく今回の原綿は繊維が長くしなやかなので、そんなに縮まないのだろう。
「最終加工は、きれいにプレスしてあるんですか?」
「うん、八王子に出して、きれいになってきてるよ。」
「じゃぁ、すみませんが、もう一度水洗いして、ぐちゃぐちゃっと揉んでみてください。」
「あぁ、そうだな。そうすりゃ、ちょっとは皺が出て雰囲気出るかも。」

今手の中に在るこのストールを見て、
あの時武藤さんが言っていた意味が、よく分かった。

これは、私がイメージしていたマフラーではない。
私は、ウォーキングやジョギングに巻いていけるマフラーが欲しかった。
汗が出れば、これで拭って、家でじゃぶじゃぶ洗えるマフラーが欲しかった。
今目の前にあるストールは、そんなふうに使う雰囲気はかけらもない。
もちろん、コットン100%なので、汗も拭けるし、ジョギングにも巻いて行ける。
でも、そんな風に使いたくなるマフラーには見えない。
本当に優等生の、美しく上質なストールだ。

でも、原綿が上質だと、こうも違ってくるのか。
どうしても合点が行かない。
縞見ルーペで見てみる。
きれいに糸目がそろっている。
糸に遊びがない。
本当に、優等生の顔をしている。

膝の力が抜ける。
顔がこわばる。
涙が出そうになる。
あのガーゼマフラーには、会えない。
あんなに会いたかったのに、会えない。
春の終わりに注文して、
待って待って待ったあのマフラーに、会えないのだ。
もう言葉は出ない。

武藤さんに電話を掛ける。
運転中で、出ない。
またかける。
まだ運転中。
今日は日曜日。天気も良い。
武藤さんは野球の日かもしれない。

どうしても諦められない。
でも、もう諦めなければならない。
展示会は三日後に初日を迎える。
あと二日あっても、どうこうできる問題ではない。

諦めるしかない。
そう。
諦めるしかない。

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