林檎の木の下で



2013年3月31日(日)

我が家のダイニングに、赤い林檎の絵が掛かっている。
父が趣味で描いた油絵である。

最近、父はそれを見るたびに、
「構図が悪い、遠近感が出ていない」
「この上から筆を入れたら、もっといい絵になる」と
しきりに言う。

私はそうは思わない。
玄人の絵描きさんなら修正してより良い絵にできるだろうが、
素人は筆を入れれば入れるほど、ヘンテコな絵になるに決まっている。
修正したところがやはりおかしいと、またその上に変な色を重ね、
最初の絵の良いところまで台無しにする可能性が大きい。
だから、
「最初に『描きたい』と思った勢いがあるから、
この絵のままの方がいい」と、毎回なだめすかしている。

今日も同じやり取りをしているうちに、父が
「りんご~のきの~したで~」と、口ずさみだした。

なんだか聞いたことのあるメロディだが、
かなり調子が外れているので、よくわからない。
近くにあったiPhoneで、調べてみた。
【林檎の木の下で】という歌のようだ。

「ディック・ミネっていただろう。あれがジャズ風に歌っていたんだ。」
「軽やかで、いい声だったよ。」

油絵を描き直す、ということから上手く関心が逸れたようなので、
このままもっと【林檎の木の下で】の話題を続ける。

YouTubeで、ディック・ミネバージョンがあった。
何でもあるんだなぁ。
さっそく、歌を聞かせてあげた。
賑やかなデキシー・ジャズ風だった。
父は目をつぶって、懐かしそうに聞いていた。


 ♪リンゴの木の下で
  明日(あした)また会いましょう
  黄昏れ赤い夕日
  西に沈む頃に
  楽しくほほ寄せて
  恋をささやきましょう
  真っ赤に燃ゆる想い
  リンゴの実のように


原曲は、1905年にアメリカで発表された
In the Shade of the Old Apple Tree】という歌らしい。
オリジナルの歌詞は、
「かつての恋人(女性)が亡くなってしまい、
今はリンゴの木の下で眠っている」、という内容だ。
そして、ずっとずっと長い歌だ。

その歌が日本に入ってきたときは、
悲しい部分はなくなって、
楽しい恋の歌になっていた。


多くの歌手がこの歌を歌っている。
英語バージョンも、日本語バージョンも、
みな一様に楽しそうだ。
原曲からこんなに内容や雰囲気が変わってしまった歌は、
そう多くはないだろう。
でも、こういう変り方は、
いいのではないか。
だって、みな楽しそうなのだから。

ということで、今日は頭の中でこの歌がずっと流れている。
私のバージョンは、これだ。 >>>
映画の中のワンシーンのようだ。
オリジナルのしっとりしたバージョンから、
ジャズ風のアップテンポのバージョンに変えて歌っている。
両方聴けるのが面白い。

今日もなんとか、リンゴの絵を描き直すことから
話題を逸らすことができた。
次からも、ディック・ミネとこの歌を持ち出そう。




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