秋祭り



2012年10月13日(土)

どこからともなく匂ってくる、この香り。
金木犀の香りである。
まだあの橙色の花は見えないけれど、
どこかで蕾が膨らみ始めたのだろう。

植物の正確さには、本当に驚かされる。
ついこのあいだまで、残暑が長引いていたのに、
やはり10月もこの時期になると、
金木犀は忘れずに香りを放ち始める。

今日と明日は、近所のお祭り。
子供神輿が出たらしい。
太鼓の音と、子供の嬌声が近くを通り過ぎてゆく。
そのうち、並んだ屋台から、
焼けたソースやお醤油の匂いが漂い始めるだろう。

幼いころから、お祭りが好きな子供ではなかった。
人が多いし、騒がしい。
今までどこにいたのだろう。
馴染みのない文化の匂いをまとった大人たちが急に増え、
子供の平和がかき乱されるような気がした。

笛や太鼓の音も、大きく人を驚かすような音色だ。
ごった返した人込みの中で、一生懸命場に馴染もうとしている時に、
急に傍でドンドン、ピーピーとやられる。
私はぼんやりしている子供だったので、
そういう『威勢がよい』『景気がいい』という気配には、
すっかり萎縮してしまった。

私を連れて歩く親に
「何が欲しい? 何か買ってあげる」と言われても、
すぐには何が欲しいかわからない。
何があるかも、じっくり見ないとわからない。
それなのに
「ナニ? 何が欲しいの?」と急き立てられる。
結局、「はっきりしない子ねぇ」と言われて、
いつも同じ、水風船と綿菓子を買って帰ることになる。
やれやれ、やっと帰れる。
帰り道は、決まってホッとした。
いつもと同じ水風船と綿菓子でも、一向に構わない。
静かな家で、ゆっくりと綿菓子を頬張るのが、楽しかった。

今もどこかで笛の音がしている。
昔から変わらない笛や太鼓の調べ。
お祭りだけは、ロックやJポップの出番はない。
なぜなんだろう。
このメロディも、若い人は聞くとワクワクするのだろうか。









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