続々々・マダムM ~完~




2013年10月16日(水)

昨日の朝は、台風の影響で、
かなり気温が下がっていた。
見上げると、木々の葉が少し色づき始めていた。
暑い日が続いていたけれど、もう10月半ばなのだなぁ。
空は雲に覆われていた。
青い空も美しいが、重なる雲も美しさでは負けていない。

さぁ、今日は千里阪急百貨店でのショップ最終日。
どんなお客様にお会いできるかしら。
雨が降り出すと、お客様は少ないだろうなぁ。

そして、マダムMは相変わらず艶やかだった。


おはようございます、マダムM。
 「あら、おはよう。
ごきげんですこと。何か良いことでも?」

もちろん、マダムMにお会いできることが楽しみで。

「まぁ、おほほ。うれしいわ。」

「このショール、とても暖かでしたよ。
夕べは少し気温が下がったので、助かりました。
シルクとカシミヤでできているのですね。
軽くて肩も凝らなくて、とてもいいわ。」
 「首もきっちり巻いて頂いたので、
風も入らなくて、良かったですよ。」

ここ、風が入るんですか?

「そうなの。夜中は隙間風がスース―入るのよ。
ほら、最上階までエスカレーターでつながっているでしょう?
だから、ビル中空気が動くのよ。」

あぁ、そうですね。
デパートに住むのも、大変ですね。

「そうよ、大変よ。」

でも、そうやって、いつも左ばかり見て、飽きませんか?
 「あら、あなた何をおっしゃっているの?
ワタクシには、目がないではありませんか。
可笑しな方ね。
私は見ません。感じるのです。
全方向、360度。
身体全体で感じているのです。」

まぁ、そうなんですか。

「後ろでこそこそしていても、すべてお見通しですよ。」

きゃっ!
では、時々こっそりフリスクを舐めているのも
ご存知でしたか。

「フリスク? フリスクというの? あの白い錠剤。」

はい。
ちょっとお腹がすいた、疲れた、というとき、
二粒舐めていたんです。
あ、けっしてイケないものではありませんよ。

「あたりまえです。」

舐めるというより、
両頬に一粒ずつ含んでいたんです。
売り場で物を舐めてはいけません。
だから、頬に入れるだけ。
口は動かしません。

「あら、それだって、ルール違反でしょう?」

はい。。。 ごめんなさい。

「お客様と話すとき、大変でしたでしょう?」

いえ、それはもう上手にしました!
なるべく言葉少なに、お客様の方にいろいろ話して頂いて。

「まぁ、あなたったら。」

。。。すみません。

「それはいいから、そろそろお洋服、替えて頂けないかしら?
下がスース―して。」

あ、失礼いたしました。
変えます。変えます。直ぐ変えます。
 「こんどは、シルクリネンのショールね。」

はい、先ほどのものと柄が同じ、
【シルクリネン大柄ペイズリージャカード】です。
 「中は、深い紺色のシルクカシミヤになさったのね。」

はい、曇りで少し寒いので、
暖かく、秋深い感じを出そうと思いました。

「まぁ、だんだん考えるようになってきましたね。
よろしいこと。」

暖炉の横で、読書するマダムM、という図です。

「おほほ。読書はいたしませんが、知識は多くてよ。」
ボトムは【ぼかし染シルクカシミヤストールL/グレー】を畳んで、
ロングスカートに見えるようにしました。

「なんだか、本当のスカートをはいている気分になってきましたよ。
それに、腰にベルトのように巻いたピンクが効いているわね。
それにしても、このスカートの生地は、本当に軽いわね。」

はい。
そのストールは、Lサイズでも、一枚80gしかないんです。

「まぁ、そんなに軽いの?」

はい。

「本当に軽くて暖かねぇ。」

マダムに喜んで頂けて、嬉しいです!
マダム、横から見ても、とても美しいですよ。
「 ドレープ、ちゃんと出ているでしょう?
この『シルクリネン大柄ペイ、ペイ、、、、』
ん、もう、ながったらしいわね。
この名前、どうになからないのですか?」

あの、私たちは『髭柄』というニックネームで呼んでいます。

『ひげがら? どうして?』

広げてみると分かるのですが、
中心に大きなペイズリー柄を配してあって、
それが、ダリの髭に似ているんです。

「ダリって、あのサルバドール・ダリ?」

はい。そうです。あのサルバドール・ダリです。
「まぁ、可笑しい。おほほほ。」

お客様にはナイショですよ。

「大丈夫よ。話さないわ。おほほほ。」

・・・・・・・・

「あなた、こんな雨なのに、
お客様にいらして頂いて、恵まれているわねぇ。」

はい、私もとても嬉しいです。

「今日は、贈り物を探されているお客様がお二人もありましたね。」

はい、お一人は兄嫁様へのギフトでした。
実のお母様を今年亡くされて、
その義姉様がお母様のご面倒をよく見られたので、
そのことに大変感謝していらっしゃるそうです。
それで、お礼の品として、【ランダムストライプS/ブルー】をお選びいただきました。

「そうですか。それはようございました。
あのお色と柄は、お顔が艶やかに見えますね。」

はい、お客様もそうおっしゃって、買われました。

「もうお一方は、、、」

はい、義理のご両親へのお誕生祝だそうです。
お二人揃って、今年還暦を迎えられたそうで、
その贈り物を探してらっしゃいました。

「そうでしたね。」

最初に、【ブロックチェック・ガーゼスト―ル】のピンクをご覧になって、
お義母様が好きな色なので、すぐにこれに決められました。
他にも三色お色があるのですよ、とお見せしたら、
「じゃ、イロチにしようかしら。
どうですか? イロチでもいいですよね?」
と仰るので、「えぇ、とてもいいと思います」と申し上げたんです。

「イロチ? イチローじゃなくて? イロチ?」

うふふ、マダムはご存知ないでしょう。
『イロチ』って、『色違い』の略です。
ヤングが最近使う言葉なんです。

「『ヤング』って。おほほ。
あなたも相当古いわね。」

あ。


「さぁ、そろそろおやつ時ですよ。
お衣裳替えた方がよくないかしら?」

あ、そうですね。
替えます、替えます。

 「あら、今度は明るいピンクになさったのね。」

はい。【ぼかし染シルクカシミヤストール】の
L、S、XS、すべて巻きました。

「どおりで。とても暖かいわ。」
 雨が降ってきたので、
なるべく明るく、柔らかい感じにしたいと思って。
生地をたくさん使って、ドレープをたっぷり出しました。

「この感じ、ワタクシに良く似合っていると思いません?」
 えぇ、とてもお似合いです。
マダムのきめ細かくて白い肌が際立って、
前から見ても、右からも左からも、
どこから見ても、素敵です。

「ありがとう。
今日は最後まで、このままで行くわ。
もう変えなくてもよろしくてよ。」

はい、わかりました!

でも、今日でお別れなんて、
少しさびしいです。
せっかくお話ができるようになったのに。

「私もさびしいわ。
ここの展示は一週間だから、
仲良くなったと思ったら、すぐにお別れなのです。
だから、最初はあまり仲よくしないようにしようと思って、
話しかけなかったのです。

でも、あなたがNikonじゃなくて、iPhoneで写し始めたから、
がっかりしゃちゃって。つい。」

まぁ、そうだったんですか。
でも、私はお話できて、とても楽しかったし、
お勉強になりました。
マダムのお蔭で、いろいろなスタイリングを学べました。
有難うございました。

「あなた、ここにまたおいでになる?」

いえ、まだそういうことは決まっていませんが。

「そうなの。
またいらっしゃればいいのに。」

もし、そういうお話を頂けたら、ぜひ前向きに、、、

「いやぁねぇ。お仕事される方ってすぐに『前向きに』っておっしゃるの。
ただ、『はい』っておっしゃればいいのに。」

はい、すみません。。。
でも、こんど参りました時に、どうしたらマダムってわかるのですか?

「え?」

だって、マダムはご姉妹がたくさんいらっしゃって、
みなさん同じお顔に見えるんですもの。

「まぁ、そうね。あなたには同じに見えるわね。
じゃぁね、あなたにだけそっと私の個性を教えてあげるわね。
ちょっとこちらにおいでなさい。」

はい。

 「あら、もっと近づいて。」
 これくらいですか?
 「右のあごの下に、ちょっと皺があるのよ。
見えるかしら?」
 え? どこですか?

「もっと近づいて、よーくごらんなさい。」
 あ! あった! ありました。

「でしょう? 生まれたときから、この皺があるの。
あなたたちの黒子のようなものね。
これが私の個性。見分け方。」

わかりました!
ちゃんと写真に撮りましたから、大丈夫です。

「いやぁね。これは、Nikonじゃなくても良かったのに。
あなたったら。」

いえ、まだiPhone4なので。

「はやく5をお買いなさい。」

あ、もう閉店の時間です。
マダムM、名残惜しいですが、お別れです。

「そうね、お別れね。
頑張ってお仕事なさいね。
ここからいつも応援していますよ。」

はい! ありがとうございます!
私もマダムのような素敵な女性になれるよう、
ガンバリマス!

「あら、それはちょっと。。。
おほほ。まぁ、頑張りなさい。」

マダム、本当にありがとうございました。
さようなら。
「さようなら。ごきげんよう。」


マダムMは確か、私より随分年下だ。
けれど、とても頼りがいのある、大人の女性だった。
マダムに認めてもらえるよう、もっともっと研鑽を積まなければ。

また会える日まで、お元気で。
Au revoir、マダムM!







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