風の各駅停車



2012年6月20日(水)


夕べから夜中にかけて、台風が駆け抜けていった。
東京の空は明るくなってきている。

私もこのごろ、駆け足になっている。
実際に走っているわけではなく、
慌ただしく動き回っている、という意味。

去年の私は、じっとしていた。
じっとして、羽を休めていた。
そして、待っていた。
ただ、じっと待っていた。
風も起こさず、雨も降らさず。
目を閉じて、耳をふさいで、
私は何かをじっと溜め込んでいた。
情報はすべて頭の上を素通りしていった。

そして、今。
気が付いたら私は駆けている。
人が見たら、ゆったり歩いているようでも
私にとっては駆けている。
台風に比べたら、
私の駆け方は、風の各駅停車ぐらいだ。
なんだ、それじゃぜんぜん駆けてないじゃない。

いやいや、これでも駆けている。
風の各駅停車は、景色がはっきり見える。
匂いや音も感じられる。
このスピードが一番いい。
それぞれの駅で一つずつ止まって、
またゆっくり発車する。
私がじっくり溜め込んだものは
このスピードに足るだけの燃料だった。


そういえば、最近ちょっと燃料不足になっている感じがする。
この辺りでちょっと止まってみようか。
途中下車して、まわりの景色をゆっくり眺めてみようか。
風が休むと、何者でもなくなるけれど
それでもいい。
少しだけ止まってみよう。

今度は目を開いて、耳を澄まして
じっとしていよう。
もう溜め込まなくてもいいだろう。
燃料は、まわりに満ちていることが分かった。




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